りぼんの読書ノート

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文明崩壊(ジャレド・ダイアモンド)

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銃・病原菌・鉄で文明の発展過程について考察した著者が、続いて文明の崩壊過程に取り組んだ著作です。文明崩壊の問題は、その回避、すなわち現代社会を持続可能とする条件の考察に繋がってくるだけに、行動指針に直結する現実的な課題なんですね。

著者は、崩壊した社会の実例として、イースター島、マヤ、北米アナサジ、ノルウェーグリーンランドについて考察を進め、いずれも同様の道筋をたどっていると指摘します。すなわち、社会繁栄による人口増加が環境への過大な負荷をかけて、食料・エネルギーの不足を招くこととなり、資源分配を巡って共同体内部の衝突が激化、最後には飢餓・戦争・病気がとどめをして崩壊に至ったという道筋。

そこから導き出される崩壊の潜在的要因は、①環境被害、②気候変動、③近隣の敵対集団、④友好的な取引相手、⑤環境問題に対する社会の対応という5つの枠組みです。ではこの枠組みを、存続に成功した社会や脆弱な社会にあてはめてみるとどうなるのか。

惨劇を引き起こしたルワンダ、資源を貪欲に呑み込み環境破壊を続ける中国、世界で最も脆弱な環境を抱えるオーストラリア・・。過去の崩壊は個別社会単位で起きたものですが、グローバル化した現代では、一箇所の崩壊が全地球規模への連鎖を招きかねないと思うと、決して他人事ではありませんね。2005年の発刊ですが、中国やオーストラリアなどの状況は、その後も一段と悪化しているように思えます。

では、存続に成功した社会にはどのような例があるのでしょう。驚くべきことに江戸時代の日本が登場しています。「上から下」への統制で持続可能な林業を作り上げて森林破壊の危機を乗り越えたというのですが、対照的に現代の日本が世界一の木材輸入国であり「森林破壊の輸出者」となっているとの指摘は厳しい。

本書はつまるところ、「慎重な楽観主義者」であるという著者が、未来に対する希望を繋ぐために読者の「ひとりひとりが何をすべきか」を考えて行動に移すことを促していく本なのです。崩壊の道に入り込まないためのゴールデン・パスは狭い道ですけど・・。

イースター島の最後の木を石油の最後の一滴に例えたり、崩壊を目前に控えていながら贅を尽くしていたマヤの首長を現代のCEOになぞらえたりと、「警鐘の書」だけあってセンセーショナルな表現が少々目立ちますが、『銃・鉄・病原菌』に続いて知的興奮を堪能できる一冊であることは間違いありません。

2010/12