りぼんの読書ノート

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すばらしい新世界(オルダス・ハクスリー)

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ディストピア小説の先駆である本書は、並び称されるオーウェル『1984年』より17年も早い1932年に発表されたものですが、いまだに色褪せてはいません。

未来の絶滅戦争が終結した後に、人類が創設した安定至上主義の世界が舞台になっています。人間は受精卵の段階から選別されて5つの階級に分けられ、集団的な睡眠学習によって現状肯定を条件づけられて育てられ、徹底的に管理されています。個人主義の温床となる肉親関係を消滅させるため、自然の妊娠は罪とされ、その一方でフリーセックスは奨励されています。

もちろん既存宗教も消滅しているのですが、代わりに大量生産・大量消費が是とされる社会の象徴として「自動車王フォード」が崇められています。世界初の大量生産工業品である「T型フォード」にちなんで、キリスト教の十字架は上部を切られて「T字型」となり、年号も「フォード紀元」となっているのは、著者の遊び心でしょう。

フォード紀元632年、中央ロンドンの孵化センターで最上層階級アルファに属するバーナードは、一時的な恋人レーニナと、アメリカのニューメキシコ州にある「野人保護区」へ旅行へ出かけ、ジョンという青年に遭遇。実はジョンは、20年前にそこで行方不明になっていた、孵化センター長の恋人リンダが、そこで産み育てた息子でした。バーナードに連れられてロンドンにやってきたジョンの眼には、文明社会が「愚者の楽園」にしか見えず、騒動が巻き起こっていくのですが・・。

著者は後に、「ジョンに野蛮か文明かの選択肢しか与えなかったことが本書の欠陥であり、正気という第三の可能性を与えるべきであった」という趣旨の発言をしているそうです。この世界で「正気」を貫こうとすると「革命」を起こすしかありませんね。後の多くのディストピア小説が、主人公に世界の変革を試みさせようとしていることを思うと、そのコメントもまた卓見です。

2018/7