13世紀フランス。キリスト教国家であるコンスタンティノープルを陥落させてしまった第4次十字軍の後、教皇インノケンティウス3世は説教師を派遣して新たな十字軍の派遣を訴えます。そこに登場したのが大天使ガブリエルのお告げを聞いたという、12歳の少年エティエンヌ。熱狂のみに支えられて悲劇に終わったと伝えられる「少年十字軍」の始まりです。
皆川さんの「少年十字軍物語」では、エティエンヌの内面は描かれません。実際にはわずかばかりの癒しの力を持っているだけなのに、彼を信頼する少年たちから「エティエンヌがいれば大丈夫」と絶対的な信頼を寄せられる少年が苦悩しないわけはないのですが、そこはまぁ、想像できる範囲ですからね。
代わって描かれるのは、周辺の子どもたちです。彼を利用しようとする大人たちの陰謀に気付いて心を痛めながらも、エティエンヌへの信頼の揺らぐことのない農奴の娘アンヌ。世間知らずのエティエンヌを放っておけずに後を追った野生児ルー。自らの身体に十字の傷を負わせてエティエンヌに成り代わろうとする、領主の息子レイモン。そして、記憶と神への信頼を失ったまま従者として一行と行動をともにするガブリエル(彼は大人ですが)。
結局、彼らが望んでいるのは自己実現の機会なんですね。その目的は必ずしも「聖地イェルサレムの解放」でなくてもよいのでしょう。だから、商人にだまされて奴隷として売り飛ばされる寸前に生まれた「新たな希望」は、やはり「救済」なのです。たとえそれが、信仰とは異なる道であっても・・。
2014/8