りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

恋しくて(村上春樹/編訳)

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村上春樹さんが選んで翻訳したラブストーリー9編に、書き下ろしの1編を加えた短編集です。小説家がアンソロジーを編むと、収録すべき作品数が足りなくても「自分で書いちまえ」という裏技があるので楽だそうです。村上さんによる「甘味度/苦味度」バロメーターがついているのもいいですね。^^

「愛し合う二人に代わって(マイリー・メロイ)」甘味★★★★/苦味★
高校時代から好きだったのに打ち明けられないまま、彼女は離れて行ってしまいます。唯一の接点は、彼女の父の社会奉仕活動である「代理人結婚」の新郎新婦役をつとめる時。でも、そんな関係が変わる時が来るのです。

テレサ(デヴィッド・クレーンズ)」甘味★★☆/苦味★★☆
巨大は14歳の少年アンジェロが、同じクラスの不思議女子テレサに惹かれて後をつけるのですが、彼女の生活は衝撃的だったのです。

「二人の少年と、一人の少女(トバイアス・ウルフ)」甘味★★★/苦味★★
若い3人の男女による三角関係は、切なく甘酸っぱいものなのですが、ラストの展開がハードです。

「甘い夢を(ペーター・シュタム)」甘味★★★★☆/苦味☆
新婚の2人の生活は、幸福と不安が入り混じっているものなのです。終盤に導入される中年作家の視点が、2人の幸福の儚さを暗示するのですが、そんな不安に負けてはいけません!

「L.デバードとアリエット—愛の物語(ローレン・グロフ)」甘味★★★/苦味★★
第一次世界大戦が終わろうとしているころのニューヨーク。元オリンピック水泳選手の貧乏な詩人が、富豪の一人娘と出会いから始まる物語は、「水泳」と「スペイン風邪」をキーワードとする大悲恋物語。短編なんですけどね。

「薄暗い運命(リュドミラ・ペトルシェフスカヤ)」甘味★/苦味★★★★
無神経で浮気者の冴えないダメ男に恋してしまった30代の未婚の女性は、自分が負け犬であることを知りながら、「幸福」を感じるのです。ダークだなぁ・・。

「ジャック・ランダ・ホテル(アリス・マンロー)」甘味★☆/苦味★★★☆
タイトルは「ジャカランダの花」の聞き違い。若い女と駆け落ちした恋人の男性を追ってオーストラリアに渡った女性が、別人になり済まして恋人と奇妙な文通を始めます。エキセントリックな粉飾と欺瞞に満ちており、誰も幸福になどならない作品なのですが、ラストは不思議な開放感をたたえています。さすが、短編の女王!

「恋と水素(ジム・シェパード)」甘味★★/苦味★★★
飛行船ヒンデンブルク号の爆発炎上事故は、ゲイの恋人に嫉妬のあまり平常心を失った、整備員の不注意が起こしてしまったものなのでしょうか。

モントリオールの恋人(リチャード・フォード)」甘味★★/苦味★★★
出張先で不倫を重ねる恋人たちは、別れの機会を逃してしまったのでしょうか。女の夫と名乗る男性から脅迫された男は、それが女の仕込んだ芝居だと見抜くのですが・・。アメリカ人男性とカナダ人女性の関係を、2つの国家の関係と重ね合わせる必要などないのでしょうが、なんとなく意識させられます。

恋するザムザ村上春樹)」甘味★★★/苦味★★
ある朝目覚めたら、人間ザムザに変身していた虫(たぶん)の物語。錠前修理に来たせむし女に恋をしたようなのですが、その朝プラハの街は戦車に占領されていました。「この世界は彼の学習を待っている」のです。

村上さんは、「ジャック・ランダ・ホテル」モントリオールの恋人」を、小説的にも恋愛的にも「上級者向け」と言っていますが、個人的にはストレートな作品のほうに惹かれます。

2014/8