りぼんの読書ノート

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優しいおとな(桐野夏生)

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「優しい大人は滅多にいない。優しくない大人は敵。どっちつかずは要注意」。近未来、荒廃した東京でストリート・チルドレンとしてサバイバルを余儀なくされている少年イオンは、人への「愛着」を知りません。自分を助けてくれる唯一の大人モガミにも、冷たくしてしまいます。

イオンが唯一信頼しているのは、かつて一緒に育ったとの記憶に残る年上の兄弟、鉄と銅。サバイバル生活に疲れ果てたイオンは、鉄と銅がそこにいると信じて、地下の犯罪者集団に飛び込んでいくのですが、もちろんそこも安住の地などではありません。家族をもたず、大人を信じられない少年の過去には何があったのか。将来はどうなるのか。

冒頭から「この小説はハッピーエンドとはならないだろう」と思わせる、突き放した描写が続きますが、イオンのルーツも、彼が行き着く先も、想像を超えていました。「優しい大人」とは「本当の両親」のことだったんですね。ではなぜ、イオンには「本当の両親」がいないのか。鉄や銅をはじめ、ケミカル、セレン、リンなど、登場人物の無機質な名前に、ヒントがあるのですが、種明かしはやめておきましょう。

メタボラ東京島など、最近の桐野さんには「サバイバル」がテーマの作品が多いように思えますが、そういえば『OUT』『グロテスク』ダークだって、ある意味「サバイバル小説」なのかもしれません。

ただ「子どもの視点」から描かれた作品は、はじめてでしょうか。桐野さん得意の、男女のドロドロした関係もほとんど出てきませんし(笑)。桐野さんはインタビューで「男女の愛憎は時代に求められていないと思うし、私の小説は愛なき世界に向かうのかもしれません」とも語っていますが、どうなっちゃうんでしょう?

2011/2