すぐれた児童文学作品に贈られるニューベリー賞の受賞作ですが、およそ児童文学らしからぬ書き出しです。「オリーブは死んだ」というのですから。本書の主人公はオリーブの同級生だった12歳のマーサなのですが、2人はほとんど口もきいたことがありませんでした。しかしオリーブの日記には「マーサと友だちになって、小説家になって、海辺で暮らしたい」と書かれていたのです。
マーサは不思議に思いますが、その理由など問い質すすべなどありません。そこには偶然の共通点もありました。マーサ自身、小説家になりたいと思っていたし、夏休みは海辺の祖母の家ですごす予定だったのです。そして小説を書き始めようとしたマーサでしたが、何も書けないまま、夏は過ぎようとしていました。
でも多感な少女の心は揺れ動きました。少々不仲に見える両親の関係への不安。彼女を置き去りにして大人になっていくような兄への嫉妬。隣家の少年に対するほろ苦い初恋。海で溺れた時に感じた死の予感。そして大好きな祖母が老いていくことに対する漠然とした恐怖心・・。
死というものを漠然と意識した、少女のイニシエーション物語であり、『西の魔女が死んだ』と似たテイストの作品でした。マーサの成長は、海の水をボトルに詰めて「オリーブの海」と名付け、彼女の母親に持ち帰ったことで表現されています。もちろん小瓶に詰められたものは、さまざまなマーサの思いですね。それを文章化できるようになった時、彼女はきっと小説家になるのでしょう。
2020/3