りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

下町ロケット(池井戸潤)

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政治に題材を求めた前作の民王はイマイチでしたが、やはり池井戸さんの真骨頂は経済小説ですね。「本業回帰」したこの作品は、爽やかに仕上がっています。

かつてロケット開発に携わっていたものの、打ち上げ失敗の責任を取って辞職した佃。彼は親の跡を継いで従業員200人の佃製作所の経営者となっているのですが、資金繰りや大企業の下請けいじめに苦労する毎日。そんな中、法廷戦略でライバルを叩き潰すことで知られる大会社から特許侵害で訴えられ、会社は存亡の危機に立たされてしまいます。

本書の前半は、知的財産権を巡る法廷内外の闘争に費やされます。技術に自信はあっても、大企業から訴えられることで社会的信用を失い、取引先からは取引終了を通告され、メインバンクからは資金支援を断わられる苦境を、中小企業がどうやって乗り越えていくのか。このあたりは空飛ぶタイヤ同様の得意分野。

でも、本書の価値は後半にあるのです。日本のロケット開発を担う超一流企業から、ロケット燃料制御のカギとなるバルブの特許を求められたときに、佃の技術者魂は燃え上がり、高額での特許譲渡ではなく、
自社生産による部品提供の道を選択するのです。

この本は「ロケット品質」に挑戦する「ものづくり」の現場に真っ向から踏み込んでいきます。夢を負う社長の方針に反対する声もあがり社内不和も起こるのですが、超一流企業から見下されて、中小企業の意地と情熱は燃え上がります。果たして、夢は実現するのでしょうか・・。

本書では大企業の横暴が目立ちますし、事実、中小企業を見下す風潮もあるのですが、大企業側にも残る「ものづくり」の伝統には救われた思いになります。大企業にこそ、中小企業の技術と品質を評価してもらわなくてはいけませんから。

佃製作所が特許を所得したバルブとは、研究者時代の佃が開発したロケットエンジンが失敗した原因となったものであり、当時の責任者が超一流企業の社長になっているとの因縁話は、小説的にすぎるように思えますけど・・。

2011/2