りぼんの読書ノート

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下町ロケット4 ヤタガラス(池井戸潤)

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下町ロケットシリーズ」の第4弾は、前作『ゴースト』の直接の続編でした。農機具のトランスミッション用バルブを開発したものの、下町のベンチャー企業「ギアゴースト」の伊丹社長の突然の変心によってビジネスチャンスを失った佃製作所の巻き返しはなるのでしょうか。 

 

帝国重工の財前から持ち込まれたプロジェクトは、人工衛星ヤタガラスによる精密な位置情報システムを用いた無人農業トラクターでした。開発努力を重ねたトランスミッションの供給を依頼されるのですが、ライバルとして名乗りをあげたのは帝国重工に恨みを持つダイダロスやギアゴーストらの事業連合体。しかも帝国重工の次期社長候補である的場によって、佃製作所はプロジェクトからも外されてしまいます。 

 

普通の企業ならこの時点でギブなのですが、実用化のあてのない研究開発を継続する佃製作所の執念は、少々現実離れしているように思えます。はたしてライバルチームに後れを取った帝国重工は、伊丹社長と袂を別った天才エンジニアの島津裕を技術顧問として迎え入れた佃製作所と再びタッグを組むとの決断を下します。しかし、ただでさえ困難を極める新規ビジネスの立ち上げは、内憂外患を抱えたチームで可能なのでしょうか。 

 

いかにも著者の作品らしく経営者の執念と卓越した技術力で困難を乗り切っていく企業小説であり、読みごたえもあるのですが、冷静に考えると微妙な内容です。社員がNOと言えない「社長プロジェクト」がうまくいった実例は少ないですし、そもそも佃社長はいつから日本の農業の将来を憂うようになったのでしょう。現代社会では実現しえない「夢」を描いた小説として読むべきですね。 

 

2019/12