りぼんの読書ノート

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謎の独立国家ソマリランド(高野秀行)

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紅海出口からアデン湾にかけて広がる「アフリカの角ソマリアと聞いて浮かんでくるイメージは、映画「ブラックホークダウン」や「キャプテン・フィリップス」。「リアル・北斗の拳」とか「リアル・ワンピース」と呼ばれるほど、武装勢力や海賊が横行する崩壊国家としてのイメージが強い国です。

しかしその一角に、独自で民主化を進めて、10年以上も平和と治安を維持しながら、国際的に全く認められていない「ソマリランド」という「独立国家」があるというのです。「誰も行かないところへ行く」ことをモットーとする著者が、ソマリランドを含むソマリア各地を取材してその実情を探った本書は、渾身のノンフィクションです。

複雑怪奇なソマリア情勢を源平争乱に例えた発想が、わかりやすくていいですね。ソマリア単一民族地域での内乱は民族や部族の対立ではなく、戦国武将が争っているからだというのです。そんな地域で北部のソマリランドが平和を保っている理由は、宗主国であるイギリスが氏族社会を温存したために、長老の権威が保たれたからではないかとの視点には、説得力を感じます。イタリアによって氏族の権威が破壊されていた南部ソマリアは、下克上社会が続いていることに加えて、イスラム狂信派が浄土真宗のように広まった状態なのですね。

さらに著者は、かつて扮装多発地域であった北部ソマリアでは戦闘と清算のルールが共有されていたこと、国際社会に認められておらず利権もないため外国勢力が入り込んでいないことなどを、不思議な平和の理由として挙げています。いずれも逆説的なのですが、中央銀行が不在であるために貨幣価値が維持されているとの指摘にも、驚かされます。先進国家の中央銀行幹部が聞いたら卒倒しそうな主張ですが・・。

その2年後に、ソマリア全域を再訪問した後半のルポも楽しめます。海賊国家プントランドで海賊ビジネスの経済効果を試算したり、紛争中心地のモガディショでケーブルTV支局長を務める若い剛腕美女に世話になったりと、著者の冒険心はとどまるところを知らないようです。もちろん「自己責任」なのでしょうし。

2018/3