りぼんの読書ノート

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世界の辺境とハードボイルド室町時代(高野秀行/清水克行)

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タイトルこそ村上春樹作品のパロディですが、内容の深さに驚かされます。ミャンマーソマリランドなどの辺境を愛する冒険家兼ノンフィクション作家と、日本中世史を専門とする歴史学者との対談から生まれた本書は、常識的な世界観を小気味よいほどに覆してくれました。

 

高野氏が初対面の清水氏に向かって投げつけた「ソマリアの内戦と応仁の乱が似てるって思うんですが、どうですか」という魔球を、ジャストミートで打ち返されたことから始まった企画だそうです。現代の近代都市に住む外国人には理解できない、辺境の人々の行動や習慣は、日本史を通して考えると腑に落ちる瞬間があるとのこと。また一方で、前近代の日本人を理解するうえで、世界の辺境地の現状は参考になるとのこと。要するに「世界の辺境」と「中世の日本」は、タフでカオスに満ちている異世界ということで、共通点があるようなのです。

 

確かにどちらも「地域レベルのルールのほうが、国家レベルの法律よりも通用する」社会です。しかし首都には首都なりの調整機能や権威があるのであり、首都を荒廃させてしまった応仁の乱も、ソマリア内戦も長引いてしまったというのが本書のメインテーマなのでしょう。しかし両氏の蘊蓄の深さはそれにとどまりません。何を持ち出してきてもよい、異種格闘技の楽しさを味わえる一冊でした。個人的には「賠償の発想がなかったという日本法制史上の大問題」と「辺境で猫を見かけない理由」に強く興味を感じました。

 

2022/2