りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014/8 あるときの物語(ルース・オゼキ)

荒削りで完成度も決して高くない作品を1位としたのは、日系2世で曹洞宗の僧侶でもある著者の、「9.11と3.11を経験してしまった世界の救済」を願う思いが、強烈に伝わってきたから。2位から4位にあげたのは、それぞれ個性ある短編集です。
1.あるときの物語(ルース・オゼキ)
カナダの海岸に日本から漂着した女子高生ナオの日記には、惨めな人生から抜け出すために自殺を決意したと記されていました。日記の読み手となったルースは、時間も場所も越えて、ナオと「今」を共有していくのですが・・。「9.11と3.11を経験してしまった世界の救済」を願う著者の思いが、強烈に伝わってくる作品です。

2.遁走状態(ブライアン・エヴンソン)
19もの作品を収録した、破壊力抜群の短編集。自分が誰かも生死の区分もわからず逃げ続ける男。見えない箱に眠りを奪われる女。目的不明の観察任務。説明しがたい理由。すべての顔を描き続ける男。本書の狂気に恐怖を感じるのは、自分がまだ正常な精神の持ち主だからでしょうか。それとも既に・・。

3.オリーヴ・キタリッジの生活(エリザベス・ストラウト)
米国北東部メイン州にある、冴えない海辺の町クロズビーを舞台にした連作短編集。13編のすべてに登場するのがオリーヴ・キタリッジであり、全体を通してみると、中年から老年までの40年間の彼女の人生を描いた長編のようになっています。現代版『ワインズバーグ・オハイオ』ともいえる「平凡な町の平凡な人々の群像劇」は、「密やかな悲しみ」への共感を引き起こします。

4.恋しくて(村上春樹/編訳)
村上春樹さんが選んで翻訳したラブストーリー9編に、書き下ろしの1編を加えた短編集です。小説家がアンソロジーを編むと、収録すべき作品数が足りなくても「自分で書いちまえ」という裏技があるので楽だとのこと。「恋の初級者」から「上級者」までが対象だそうです。村上さんによる「甘味度/苦味度」バロメーターがついているのが、いいですね。



2014/8/30