りぼんの読書ノート

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アフリカ・レポート(松本仁一)

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「悪魔の銃」カラシニコフを切り口にして、国家と武力のあり方を問いかけた名レポートカラシニコフの著者が、アフリカ問題に切り込んだ作品です。

豊かだったジンバブエの農業を10年で壊滅させ、大量流民を発生させた原因は何か? アパルトへイトを克服した南ア共和国が、犯罪多発国家となってしまったのは何故か? アンゴラスーダン、ナイジェリア、ソマリア・・「失敗国家」の例は次々と続きます。近年では、かつての優等生ケニアですら部族紛争が起きているのですね。

腐敗と貧困と混乱から抜け出せないアフリカ諸国の問題は、「植民地支配の傷跡」や「旧宗主国の介入」などが原因とされ、現政権の為政者を非難すると「レイシスト」と非難されるのが常だったわけですが、本書は「政治の失敗」と「権力の腐敗」に焦点をあてています。もともと近代的国家の概念が存在しなかったアフリカに旧宗主国の都合で国境線を引き、部族優先主義が根強い風土をそのままにして国家の経営を任せた結果、近親者や同族に利権を分配するだけの政府ができてしまったことが「失敗国家」の原因とする指摘には頷けます。

もちろん、軍事独裁政権を黙認して、石油資源や農産物を収奪し続けている先進国側の問題も大きいのです。日本がよく行っている「国連での票を買う」ための「経済支援」は権力者間で分配され、現政権の延命に力を貸しているだけなのでしょう。とはいえ、「自国民が立ち上がらなければ構造も変えられない」との指摘もその通りで、現地NGOなどの動きも紹介されていますが、国民に立ち上がる力が残っているのか・・。

本書はあくまでも「レポート」であり、これだけで複雑なアフリカの問題を理解するなどできるものではないのですが、「多くの人に関心を持ってもらう」ための入り口の本として優れた作品だと思います。近年、六本木でアフリカ系人をよく見かけるようになりましたが、多くがビアフラ系のナイジェリア人とは知りませんでした。彼らも一種の難民なのですね。

2010/4