りぼんの読書ノート

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仮面の商人(アンリ・トロワイヤ)

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3部構成の小説です。

第1部は、1935年のパリ。新人作家ヴァランタンは、怒りを叩きつけたような作風の作品も売れず、批評家には叩かれ、救いを求めた上流階級夫人との恋愛も破局を迎えて、絶望の余りに自殺。しかし、第2部の50数年後には「戦争を予感した夭折の作家」として人気が出ているのです。作家が死んだ年に生まれた甥のアドリアンは、叔父の評伝を書こうと第1部の登場人物を訪ね歩きます。

しかし、それぞれの人物にとって、ヴァランタンの思い出は美化されてしまっていました。誰もが、理解者か、協力者か、恋人か、友人だったかのように振る舞うのです。それらを纏めて、ようやく「叔父の人物像」を書き上げたアドリアンが、驚愕の手紙を発見するのが第3部。それは、叔父が不倫していた上流階級夫人が保管していた手紙であり、それこそが「叔父の真実」を伝えていたのですが・・。

著者自身が、1935年にパリでデビューした作家です。当時の文学界の雰囲気は、著者がリアルタイムで体験したものなのでしょう。伝記作家としてのほうが有名に思われる著者ですが、もちろん小説家です。本書は、晩年に書かれた作品とのことですが、三部作としての見事な構成も、軽妙な語りも、強烈な展開も、「真実に価値はあるのか」というメッセージ性も素晴らしい作品です。

2015/9