りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

さくら(西加奈子)

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スーパースターのような存在だった兄が事故で不具になり、やがて自殺したことによって、家族は崩壊してしまいました。物静かで思慮深かった父は家を飛び出し、太陽のように陽気だった母は過食と飲酒に溺れ、超美形の妹は引き籠り生活。語り手である次男は実家を離れて東京に進学。あとは、老犬のサクラだけ。

そんな一家は、父が久しぶりに家に戻ってきても、その連絡を受けて次男が帰省しても、集まっただけで再生できるものではありません。むしろ、互いの過去や思いを知っている分、気詰まりなもの。彼らをもう一度「家族」としての纏まりを与えるためには、老犬サクラが引き起こした「小さな奇跡」が必要だったのです。

ある書評では「犬が出てくる卑怯な話(笑)」とありましたが、そのあたりはアリステア・マクラウド冬の犬を思わせます。でも、むしろ全体的にはパット・コンロイの潮流の王者との類似を強く感じました。ニック・ノルティとバーバラ・ストライザンドが共演した映画「サウス・キャロライナ」の原作です。兄の死によって精神を患った姉を見舞う弟も、トラウマから抜け切れていなかったという物語。

著者の2作目の作品であり、当時はまだ20代のころ。テクニックよりも、気持ちが上回っているように思いますが、それが「良さ」となって現れた作品だと思います。直木賞を受賞したサラバ!は、当分順番が回ってきそうにありません。

2015/9