りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ホテル・ニューハンプシャー(ジョン・アーヴィング)

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西加奈子さんのサラバ!で言及されていたので再読してみました。私にとってもこの本は、物語を読むことの楽しさを再認識させてもらった、思い入れの深い作品なのです。

物語は、40代に差し掛かったジョン・ベリーが、人生というお伽噺の中で、愛し、傷つき、失われていった家族の過去を振り返る形式で進んでいきます。ホテル経営を夢見る父親ウィン。そんな夫を許すことを誓った母親メアリー。ゲイで人付き合いの苦手な長男フランク。勝気な美女の長女フラニー。実の姉に恋している次男ジョン。小人症でやがて作家になる次女リリー。難聴でコスプレ趣味の三男エッグ。生涯フットボールコーチだった祖父アイオワ・ボブ。

廃校となった女子校を改造し、最終的には小人サーカス団に売られた第一次ホテル。ウィーンで開業し、売春婦とテロリストの温床となった第二次ホテル。荒廃した元リゾートホテルを買い取って、レイプ被害者の更生施設とした第三次ホテル。どれも厳密な意味ではホテルではありませんが、人生の交差点となる空間ですね。

多彩な脇役たちも、それぞれ重要な役割を果たします。夢の儚さの象徴であるホテル経営者のアーバスノット氏と、夢の共有性を象徴する老いた熊のアール。後に悲しみの象徴となるラブラドル犬のソロー。はじめは熊の売り手として登場し、後にベリー家をウィーンのホテルに呼び寄せるユダヤ人のフロイト。著名な心理学者を連想させる名前を持つ小男は、夢の悲劇性を象徴しているかのようです。そして、最も魅力的な人物であった熊のスージー!彼女は「羊男」の原型なのでしょうか。

現れては消えていく夢に対して、現実の人生における悲しみや愛は漂い続けます。しかし、私たちは「窓のこちら側」にとどまり続けないといけません。開いた窓の前で立ち止まり、「窓の向こう側」を覗き込んではいけないのです。

2016/7再々読