りぼんの読書ノート

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ニューヨーク市貯水場(E・L・ドクトロウ)

南北戦争後1871年のニューヨークは、活気と混乱に満ちた大都会でした。ヨーロッパ各地からの移民が急増する中で、『ギャング・オブ・ニューヨーク』にも登場する悪徳政治家ビル・トゥイードが贈収賄と暴力で市政を牛耳っていた時代だったのです。

 

そんなニューヨークで不思議な事件が起こります。本書の語り手である新聞編集者マッキルヴァンが書評を依頼している若いフリー執筆者のマーティンが、「死んだはずの父を見た」と口走ったのがきっかけでした。彼の父は北軍に粗悪品を供給し、裏では奴隷貿易にも手を出して財を成した新興成金のオーガスタスであり、マーティンは父の生き方に抗議して感動されていたした。はじめは取り合わなかったマッキルヴァンでしたが、やがてマーティンが失踪するに及んで、ニューヨーク市警の堅物警部ダンとともに彼の行方を追いかけます。

 

しかし謎は深まるばかり。なぜオーガスタスの後妻や息子は無一文になって親戚の家に居候しているのか。巨額の遺産はどこに消えたのか。墓に埋葬されたのは誰なのか。どうやら遺産を遺さずに消えた大富豪はほかにも何人もいて、当時増えていた貧しい孤児たちの失踪事件とも関係がありそうです。やがて2人がニューヨーク貯水池の地下で見出すのは、大富豪たちの歪んだ欲望を実現させようとした、悪魔的な天才医師の許されざる大罪でした。そしてこの事件はトゥイードの失脚にも結びついていくのです。

物語のプロットや展開だけでも面白いのですが、当時のニューヨークの情景や世相のデティルも楽しめる作品です。電話も電灯も自動車もまだ登場せず、ダウンタウンには押し寄せる移民たちを受け入れる安アパートが増殖し、金持ちは北へ移動し、セントラルパークの建設も始まっていた頃のこと、当時ニューヨークのクロトン貯水池は、40番街という街の中心部にあったのですね。現在はニューヨーク図書館本館とブライアント公園になっている場所であり、その前は無縁墓地だったそうです。

 

2024/1