りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

やさしい共犯、無欲な泥棒(光原百合)

尾道に生まれ育ち少女の頃から「ミステリ」と「メルヘン」を愛した著者は、やがて英文学研究者となり、故郷の大学で教鞭をとりながら創作を続けました。ケルト伝説に想を得た『銀の犬』も、ホメロス世界を描き直した『イオニアの風』も、尾道で起こった小さな奇跡を綴った『扉守』も、優しい中に明日への希望を感じさせてくれるファンタジーでした。本書は、2022年に58歳で亡くなった著者を追悼して編まれた短編集です。

 

「第1部 潮の道の物語」

尾道を舞台にして、新米のFMパーソナリティが故郷の魅力に気付きながら成長していく「黄昏飛行」と、失恋して一時帰郷っした際に友人から故郷の良さを教えられる「不通」ならなっています。どちらの作品にも、著者の故郷愛を強く感じます。

 

「第2部 短編の名手」

架空世界を舞台にして領主と奥方の愛憎劇に隠された秘密を探る「花散る夜に」と、浪花大学ミステリ研究会で起こった日常の謎を解き明かす「やさしい共犯」と「無欲な泥棒」からなっています。浪花大学とは、もちろん著者の母校である大阪大学のことですね。

 

「第3部 尾道草紙」

いずれは尾道の民話となって語り継がれていくことを夢見て、学生たちとともに刊行し続けた「尾道草紙」から、著者によるの掌編である「花吹雪」と「弥生尽の約束」が収録されています。どちらも桜の花が起こした優しい奇跡の物語です。

 

「あとがきにかえて」

著者はきっと、何もできないながら人々に寄り添い続けた「何もできない魔法使い」となりたかったのでしょう。

 

2024/1