りぼんの読書ノート

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皇妃エリザベートのしくじり人生やりなおし(江本マシメサ)

1898年に60歳で暗殺者の凶刃に倒れたオーストリア皇妃エリザベートは、「民衆に慕われた皇后」との伝説を遺しました。ウィーンのホーフブルク宮殿の一画が、彼女の生涯をたどる「シシィ博物館」となっているほど、今でも人気の高い人物です。しかし義母ゾフィーとの不仲や夫フランツ大公の無関心をうとましく思い、ウィーンを離れて旅を好んだ皇妃としての生涯は幸福だったのでしょうか。本書は、死後も亡霊としてシェーンブルン宮殿に留まり、ハプスブルク家の終焉を見届けたエリザベートが、生まれ変わってしくじり続けた人生をやり直すファンタジーです。

 

バイエルン王家傍系の娘であった6歳の少女時代に戻ったエリザベートは、2度目の人生を幸せなものとするためにひとつのことを誓います。それは絶対にオーストリア皇帝に嫁がないこと。かつてフランツに見初められた無垢な美少女ではなく、男性顔負けの才色兼備の女性になろうとするのですが・・。

 

運命は変えることができるのでしょうか。どんなに避けようとしてもフランツとは出会ってしまいます。しかも教養を身に着けたエリザベートは、以前の人生では理解できなかった義母の気遣いや、元夫の悩みを理解できるようになってしまい、あらためてフランツに恋してしまうのです。フランツのほうも「ハプスブルク家存続のためには絶対王政を緩和して諸民族の協和を図るべき」などと過激な意見を口にする少女に、魅力を感じてしまった模様。それでもハプスブルク家の滅亡を回避するために、エリザベートは頑なに求愛を拒み続けるのですが・・。

 

彼女の歴史が改変されたら、息子ルドルフは心中などせず、皇位継承者であった甥のフェルディナントもサラエボで銃撃されず、第一次世界大戦は起こらず、敗戦後窮乏したドイツはヒトラーを選ぶことなどなく、20世紀の歴史そのものが大きく変わってしまうのかもしれません。しかしその場合には絶対王政信奉者からの恨みを買うこともありそうです。もちろんエリザベートの2度目の恋を扱った本書では、そんな先のことは対象外なのですが、つい気になってしまいました。ちなみに彼女の愛称である「シシィ」とは、幼い頃にエリザベートを縮めて「リジィ」と書いた字が下手すぎて「シシィ」としか読めなかったことから来ているようです。知らなかった・・。

 

2024/1