りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

わるいうさぎ(中島さなえ)

ラボから脱走したうさぎが、野たぬきの犯罪団とともに押し入った牛舎で饒舌なねずみや自分本位な犬と出会う中で愛する者の存在に気付いて、まだラボに捉えられているメスうさぎを救いにいくという寓話です。はじめにうさぎによって語られる物語が、さまざまな登場者の視点からによって語られ直すことで深みを増していく大人の童話に仕上がっています。

 

哲学的で饒舌なねずみには、生涯でたった一度の同棲生活をおくった連れ合いに逃げ出された過去がありました。彼女は彼と共に生きる人生を退屈な地獄と呼んだのです。巨体の独裁者である野たぬき犯罪団のボスは、うさぎを気に入って仲間に迎え入れますが、それもうさぎが反抗のそぶりを見せるまでのことでした。しかし彼は反乱にあってあっけなく追い出されてしまいます。

 

誰かの飼い犬となることに憧れるあまりに、唯一の友人であった猫を川に突き落としてしまいました。やがて牛舎の持ち主に飼われることになるのですが、飼い主の愛情をひとりじめしたい感情を抑えることなできません。缶詰の原料となるために飼われていたメスうさぎは、缶詰工場がつぶれたことで命拾いしたものの「世界に置いて行かれた」と落ち込んでいました。彼女が広い世界を見たいと思った時にはラボに捉えられていたのです。広い世界を希求する思いは、母とはぐれて森にとどまっていたタカの兄弟と共通のものなのでしょう。

 

そして見えない目で森の全てを見ているふくろうは、何を思うのでしょうか。著者は中島らもさんの娘だとのこと。どことなく通じるものを感じます。

 

2024/1