ラテンアメリカを代表するノーベル文学賞受賞作家が1977年に発表した本書は、半自伝的な青春小説であるとともに、スラップスティック濃度の濃いコメディタッチの作品です。まだ大学生の身でありながら、ラジオ局の報道原稿を書いていたマリオは、天才シナリオライターのペドロ・カマーチョが生み出す奇想天外なラジオドラマと、16歳も年上で出戻りの義理の叔母フリアに魅了されてしいまいました。それから幾年も経た後、著者はどのような思いで過ぎ去った青年時代の熱狂を描いたのでしょう。
2.ルクレツィアの肖像(マギー・オファーレル)
初代トスカーナ大公のコジモ・デ・メディチの3女として生まれたルクレツィアは、フェラーラ公アルフォンソ2世と結婚したものの16歳で急死し、夫に毒殺されたとの噂が立ちました。著者は携帯の検索画面に偶然現れた彼女の肖像画が、不安げで心細そうな表情が何かを語りたがっているように思え、自らの小説で語らせてみようと思ったとのことです。『ハムネット』で、通説では悪女とされているシェイクスピアの妻を魅力的に描いた著者は、彼女をどのような人物に描いたのでしょう。最終盤に肖像画が起こした奇跡を、そのまま歴史的事実として受け入れたくなってしまいます。
3.数学が見つける近道(マーカス・デュ・ソートイ)
『素数の音楽』や『シンメトリーの地図帳』で数学への興味を沸かせてくれ、『知の果てへの旅』で現代知識の最前線を、『レンブラントの身震い』でAIの到達点について解説してくれた著者の新刊のテーマは「近道術」でした。膨大な総当たり計算を瞬時にこなすコンピューターができないことは、問題を効率的に解決するための近道を発見することであり、これこそが人間が成し遂げて来たことだというのです。そしておそらく自然界も。近道とは「旅を最速で終えるためのものではなく、新たな旅を始めるための踏み石」であるようです。
【その他今月読んだ本】
・世の中に悪い人はいない(ウォン・ジェフン)
・人間(又吉直樹)
・蒸気駆動の男(吉良佳奈江/訳)
・財布は踊る(原田ひ香)
・ニューヨーク市貯水場(E・L・ドクトロウ)
・ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2(小川一水)
・ツインスター・サイクロン・ランナウェイ3(小川一水)
・ばけもの厭ふ中将(瀬川貴次)
・女だてら(諸田玲子)
・メゲるときも、すこやかなるときも(堀川アサコ)
・わるいうさぎ(中島さなえ)
・やさしい共犯、無欲な泥棒(光原百合)
・皇妃エリザベートのしくじり人生やりなおし(江本マシメサ)
・古地図で大江戸おさんぽマップ(山本博文)
2024/1/30