りぼんの読書ノート

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女人入眼(永井紗耶子)

昨年「鎌倉殿の13人」を見たばかりなので、鎌倉幕府成立直後のわかりにくいゴタゴタは強く印象に残っています。そして源頼朝北条政子の娘である大姫が入内を前にして自殺した事件も。本書は、大胆な野望を抱いて目的のためには手段を選ばない政子と、繊細な心を持つ大姫の母娘の葛藤を描いた物語です。語り手を務めるのは、後白河院の寵愛を後ろ盾にして宮中掌握を進める丹後局の命を受けて鎌倉入りした宮女の周子です。

 

周子に与えられたミッションは大姫の入内を実現させること。丹後局次の一手として、鎌倉幕府と良好な関係を結ぶことは重要な意味を持っていたのです。しかし肝心の大姫は入内の意思を示すどころか、周子と言葉を交わしてもくれません。どうやら大姫の気鬱は、許嫁であった木曽義高を父・頼朝に殺害されたことに加えて、彼女がそれを悲しんだせいで別の犠牲者を出したことに原因があるようなのです。激情の赴くままに振舞いながら「絶対に過たない」政子は、大姫に影響を与える者を排除し続けていたのです。もちろんそれは歪んでいるし、政子が過たないのは他に責任を押し付けるからなのですが・・。それでも周子は大姫の心を開くことができたのですが、はたしてそれは彼女のために良かったのでしょうか。

 

タイトルの「女人入眼」とは、「男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは女人であろう」という丹後局の言葉からきています。それはある意味で実現するのですが、まさか丹後局が丹念に布石を打った碁盤が、全く異なるゲームをしていた政子にひっくり返されるとは思ってもいなかったことでしょう。母娘の物語が行き着いた先は史実の通りですが、著者は嬉しいエピローグを準備してくれました。それは母娘の間で苦しんだ周子が、最後にささやかな幸福を掴んだこと。周子は丹後局のゲームからも、北条政子のゲームからも無事に降りることができたのです。

 

2023/10