りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ハイ・フィデリティ(ニック・ホーンビィ)

1990年代前半のロンドン。35歳になったさえないレコードショップの店主ロブは、恋人のローラに振られたばかり。もちろん彼が悪いのですが、「君は過去につきあった女性たちほど屈辱と傷心を与えてくれなかった」と強がりを言うのです。しかもその言い方がヤバすぎます。「無人島に持っていく5枚のレコード」のように「これまでの別れのトップファイブ」を年代順に並べるのですから。そう、彼はノスタルジックなポップミュージックの世界に生きているクズ男なのです。弁護士としてキャリアを積んでいるローラとは、はじめから釣り合っていないことは明らかでしょう。

 

ロブは過去のトップファイブの女性たちに連絡を取りますが、何らかの進展があるはずもありません。そもそもリストには、小学生時代のファーストキスの相手や、中学生時代にさわらせてもくれなかった女の子が入っているのですから。売れないシンガーソングライターのマリーと関係を持ったものの、そこに未来はないことはお互いにわかっています。その一方でローラは別の男性と付き合い始めたようで、ロブは気になって仕方ありません。

 

本書は、そんなロブが「長い青春期」に終止符を打って困難な現実に立ち向かおうと決意する物語です。自分の好きな曲ばかり並べるのではなく、ローラが何度も聞いてくれそうな曲が詰まった「オムニバステープ」を作ろうという発想がオタクを脱してはいませんが、相手の心を思い遣ることを知っただけでも、まあヨシとしましょう。

 

タイトルの「ハイ・フィデリティ」は「ハイファイ」と音楽用語にしたほうが通じますね。もっとも主人公の純粋さやパートナーへの貞節などの意味も持たせているのでしょう。小説内に登場する数多くのミュージシャンや音楽がマニアの心をとらえたことは言うまでもありません。訳者である森田義信さんが40ページにもわたる注釈をつけてくれていますが、そこは読み飛ばさせていただきました。映画化もされています。小説では味わえないバックミュージックをたっぷり聞くことができそうです。

 

2023/10