りぼんの読書ノート

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ブック・オブ・ダスト1.美しき野生(フィリップ・プルマン)

世界の運命を背負う少女の大冒険を描いたハイ・ファンタジーライラの冒険3部作』の10年前の物語。「ロードオブザリング」に対する「ホビットの冒険」や、「ハリー・ポッター」に対する「ファンタスティック・ビースト」のような位置づけですね。

 

オクスフォードから5キロほど上流にある町の宿屋兼パブ「鱒亭」のひとり息子で、11歳になるマルコムが主人公。「美しき野生」とは彼が持っているカヌーの名前です。働き者のマルコムは家の仕事を手伝うだけでなく、対岸の聖ローザマンド修道院のシスターたちの日常の手伝いもしています。ある時彼は、シスターたちが秘密裏に育てている赤ちゃんに遭遇します。その子の両親は、どうやら探検家のアスリアル卿と冷酷な賢者マリサ・コールターのよう。時々修道院を訪ねてくる父親は、なぜか母親には赤ちゃんの行方を知らせていないようです。もうお分かりですね。彼女こそが幼いライラだったのです。

 

物語は、なぜかライラを付け狙う物理学者で犯罪者のジェラール・ボンヌビルが登場することで動き出します。卑劣な行為も殺人も厭わないジェラールのダイモン(守護精霊)が3本足のハイエナであることも、彼の性格を現わしています。彼の出現と歩調を合わせるように、教権機関の思想統制が強まっていきます。そして町が大洪水に襲われた日に、マルコムはボンヌビルの魔手からライラを救い出して、カヌーでテムズを下り始めるのでした。

 

目指す先は父親アスリアル卿の名刺に書かれていた学者の聖域オクスフォードのジョーダン学寮。彼らを執拗に追うジェラールや教権機関に対するのは、真理計の研究に励む若き日のハンナ・レルフ博士と彼女の仲間たち。マルコムの名前も「ライラの守り手」として魔女の予言に登場していたようです。テムズ流域の町も飲み込む大濁流の中で、マルコムが出会う巨人やジプシャンや魔女らの謎めいた者たちは、敵なのか、味方なのか。そもそもマルコムと行動を共にしている「鱒亭」で皿洗いをしている15歳の少女アリスだって、どこか謎めいているのです。おそらくはこのシリーズのヒロインなのでしょうけれど。久しぶりに「ライラの冒険」の世界に浸ることができました。続編もあるようです。

 

2023/10