りぼんの読書ノート

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二十四の瞳(壷井栄)

木下惠介監督、高峰秀子主演の1954年の映画で内容は知っているのですが、原作は未読でした。小豆島の「二十四の瞳映画村」を訪れたことをきっかけに、映画村内の壷井栄記念館で文庫を購入しました。

 

昭和3年、新卒の大石先生が赴任してきた「瀬戸内海べりの寒村の分教場」は、具体的な地名は書かれていないものの、著者の故郷にほど近い田浦地区であると特定されています。入り江の海の半島の突端にある分教場には1年生から4年生までが通い、5年生になると5キロ離れた苗羽(のうま)の本校まで歩いていくことになっていました。大石先生が受け持った1年生は12人。8キロ離れた対岸の実家から白いブラウスで自転車に乗ってやってきた女先生に顔を顰めた村人もいたものの、たちまち子供たちの心を掴んでしまいます。

 

大石先生が分教場で教えていたのは、たった半年にすぎなかったのですね。子供のいたずらによる落とし穴でアキレス腱を切ってしまった先生は、数か月間休んだ後に本校に復帰したのです。12人の子供たちが大石先生と再会するのは、彼女たちが5年生になった4年後のことでした。そして小学校の卒業が迫ってくるに連れて、子供たちの運命は、逃れようもない貧困と、迫り来る戦争の渦に飲み込まれていくことになるのです。

 

母の死後すぐに小学校に来なくなった松江、成績優秀なのに進学を諦め奉公先で肺炎に罹ったコトエ。没落した旧家の娘で色町に売られた富士子。戦争で命を落とした3人の男の子と、失明して戻ってきた磯吉。もちろん普通の暮らしができている子もいます。しかし、高松で教師となった早苗や、大阪の産婆学校を出た小ツルや、家出を繰り返した後に年取った男と結婚して料理屋を切り盛りしているマスノや、大家の若奥様となったミサ子にらに戦争は影を落としています。結婚退職した大石先生も、夫を失いました。

 

物語は、冒頭の場面から18年後、13年ぶりに分教場で教職に復帰した大石先生を囲む同窓会の場面で終わります。8キロの山道を泣きながら歩き通して大石先生を見舞いに行った時の記念写真を、失明した磯吉が「この写真だけは見えるんじゃ」というラストは号泣ものですね。反戦色が濃く、子供たちの描き方が「天使しすぎる」と批判されることもある作品ですが、素直に感動できるはずです。

 

映画村内の「松竹座」では「二十四の瞳」を繰り返し連続上映しています。10分程度見ましたが、いい場面を見ることができました。6年生の修学旅行先の高松で大石先生が、うどん屋での辛い奉公に耐えている松江と再会する場面。親の期待に沿うために進学を諦めたとコトエが大石先生に告げる場面。時間に余裕があれば全部見たかったほどです。

 

2023/10