りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

パンドラの少女(M・R・ケアリー)

10歳の少女の名はメラニー。大好きなジャスティーノ先生の授業を受けることを楽しみにしていて、成績は常にトップ。しかし彼女が住んでいるのは独房で、教室への移動も授業中も、車いすに拘束されたまま。優秀な彼女はここがロンドンの北にある陸軍基地であり、基地の外は安全ではないことを知っています。ではなぜ彼女がそんな扱いを受けているのでしょう。

 

実は世界は滅亡の危機びあったのです。大半の人間はゾンビと化し、イギリスでまともな人間は、海岸に建設された武装コロニー内に細々と暮らしています。もちろんロンドンなどの大都市は既に廃墟となっています。まるで「アイ・アム・リジェンド」のようなディストピア世界。実はメラニーたち少数の少年少女だけが、ゾンビウィルスに感染しても知性を保ち続けており、その秘密を解明するためにコロニーから離れた場所で研究が行われていたのです。

 

しかし研究施設の防御も破られ、今や自分の境遇も知ったメラニー、子供に希望を見出して愛情を注ぐジャスティーノ先生、メラニーを研究材料としか見ない「邪悪な」女性科学者、経験豊富な下士官、恐怖を隠せない若年兵の5人だけが脱出。彼らはゾンビエリアを徒歩で横断し、遠く離れた武装コロニーへと向かいます。メラニーにとって、そこに到達することは研究材料として解体されることを意味しているのですが・・。

 

カズオ・イシグロ氏が本書を絶賛したとのこと。確かにメラニーの境遇は『わたしを離さないで』のキャシーと通じるところがありますね。それに加えて視点人物の切り替えやストーリーの進行が映画的に面白く、上下2巻を一気読みしてしまいました。ラストで「パンドラ」の意味がわかる場面は圧巻です。実際に映画化もされていて、日本でも2017年に公開されたとのこと。どうやらB級映画だったようで、アンテナには引っかからなかったのですが。

 

2022/6