りぼんの読書ノート

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吹上奇譚4 ミモザ(吉本ばなな)

かつて異世界に通じていたという海と山に囲まれた吹上町に生まれた、不思議な能力を持つ者たちの物語は、この巻で完結。全4巻を通じて語り手であったミミは、夢見と屍使いの能力を持つ双子の姉妹の姉ですが、幸か不幸か、本人も嫌がっている屍使いの技を使う機会はありませんでしたね。

 

前巻で予兆はありましたが、やはり友人の美鈴は妊娠していました。ざしきわらしはお腹の子供が出していたサインだったようで、美鈴が妊娠に気付いた途端に姿を消したとのこと。生まれてきたのは、ミミの妹のこだちが感じていたように女の子で、ミモザと名付けられました。ただし夫の墓守くんと似つかない、美しい褐色の肌をしていたのです。これは一時美鈴の身体を乗っ取っていた黒美鈴の仕業のようです。

 

「全てがへなちょこな墓守くんのへなちょこ度合いにかかっている」とは、このことだったのですね。幼い頃の体験から著しくセックス嫌いになってしまった美鈴にほとんど触れる機会もなく、しかも他人の子の父親となってしまった墓守くんですが、彼が赤ちゃんを拒むことなど考えられません。一瞬のとまどいの後に、全てを受け入れたようです。何より出産時の叫び声をきっかけにして、美鈴は話せるようになったのですし。口元からぽろぽろこぼれてくるきれいな文字を見ることは、もうないのでしょう。

 

長い眠りから覚めたママはどんぶりを作り続けているし、こだちと勇さんの「美女と野獣」夫婦関係は、安定しています。姉妹を育ててくれたコダマさんと雅美さんは相変わらず美味しいアイスクリームを作り続けています。勇同様に異相の住職が年老いてきたことと、屍人が減ってきたことは関係があるのでしょうか。どうも寺にはロズウェル的な秘仏もあるようなのですが、見ない方が良さそうです。老婆形の姉を失った少女形の占い師ミノンは、ネコを飼い始めました。大勢の人たちの力で支えられている吹上町がかけがえのない場所であることに気付いたミミも、なにか吹っ切れたようです。

 

著者がライフワークと語るこのシリーズは、「連作短編なのか番外編なのかこの続きなのかまだわからないけど」書き続けていくそうですので、薄く期待しながら待つことにします。

 

2023/10