りぼんの読書ノート

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さよならの儀式(宮部みゆき)

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時代ものから現代もの、ミステリからファンタジーまで何でも超一流の作品を書き続けている著者ですが、本書は8編のSFからなる短編集。実は、著者のSFは他の分野の作品ほどには魅力を感じないのです。ガジェットに新味がないせいなのでしょうか。もちろん、人間関係を描くことについては素晴らしいのですが。 

 

「母の法律」 

親権の停止・剥奪・付与の全てが国家が集中管理できるようになった世界。親から虐待を受ける子どもたちを救うための法律なのですが、記憶沈殿措置の印象が良くないのでしょうか。親子の繋がりを神聖不可侵と考える人たちは今でも強く反対しています。養母の死によってホームに戻ることになった少女は、反対派の女性から死刑囚になっているという実母の存在を教えられるのですが・・。 

 

「戦闘員」 

知らないうちに町のあちことに増殖している防犯カメラは、地球侵略をもくろむエイリアンが人類観察のために擬態しているものなのでしょうか。それに気づいてしまった老人と少年は、戦闘員として覚醒するのです。 

 

「わたしとワタシ」 

過去からやってきた少女は、30年後の自分が冴えないオバサンになっていることを知って愕然とした様子です。少女を失望瀬せてしまったオバサンは、自分もまた未来へのカギを手にしていると気づくのですが・・。作中でプロットが紹介されている「ワタシが小悪魔だったこと」という小説が面白そうです。 

 

「さよならの儀式」 

長い間働いてくれた超中古ロボットが廃棄される前に面会したいという少女を案内した技師は、ロボットと少女が意志を通じさせたように見えたのです。それは本来あり得ないことだったのですが、技師はあらためて人間とロボットの違いについて悩んでしまいます。 

 

「星に願いを」 

地球に不時着した外宇宙の精神生命体に宿られた人間は、行動のコントロールは受けないものの、人間の心性が視覚化された姿で見えてしまいます。鏡に映った自分や、優しい母親の姿を見た少女は、ショックを受けるてしまうのですが、それは悪夢にすぎないのでしょうか。 

 

「聖痕」 

虐待を繰り返す親を殺害した少年Aは救世主であり、虐待者に鉄槌を下し続けているというネット情報の真偽確認を依頼された調査員。彼女が「発見」した真実とは、どのようなものだったのでしょう。救世主の降臨を予言した者は、言葉で神を創り上げてしまったのでしょうか。 

 

「海神の裔」 

19世紀末にフランケンシュタイン博士が生み出した屍者を生み出す技術は世界中に広まり、第二次大戦の兵士の何割かは屍者であったようです。廃棄される寸前に脱走兵によって救われ、海辺の寒村に匿われた屍者は強い身体と優しい心の持ち主で村を救います。英国から購入されたという古い屍者は、小説にもなった第1号だったのかもしれません。 

 

「保安官の明日」 

800人を超える「帰還者」たちが暮らす村は、たったひとりの「帰還者」の人生を繰り返すために作られたものでした。その人物は常に犯罪を犯してしまうのでしょうか。そして人格を造り出しているものをつきとめることは、可能なのでしょうか。 

 

2020/9