りぼんの読書ノート

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吹上奇譚1 ミミとこだち(吉本ばなな)

ミミとこだちは「海と山に囲まれた孤島」のような吹上町で育った双子の姉妹。交通事故で父を失い、母が寝たきりになってから、2人で支え合いながら生きてきました。しかしある日、こだちが失踪してしまいます。思い余って謎めいた少女と老婆の占師に相談したミミは、思いがけないことを告げられました。吹上町にはかつて異世界への入り口があり、異世界人の遺伝子を有した者も多いというのです。しかも眠り続ける母にも、ミミとこだちの姉妹にもその血は流れていると。

 

どうやら「別の世界と行き来する能力」を有しているこだちは、眠り続けている母を取り戻すためにあちらの世界に出かけたようです。ミミに黙って行ったのは、トライアルのつもりだったから。ミミにできるのは、こだちを信じて待ち続けるだけのようですが、実は彼女にも能力がありました。それは「夢見」と「屍人使い」。能力の名前に怖気を振るうミミでしたが、彼女が能力に目覚める時は訪れるのでしょうか。それより、こだちは母を取り戻して、こちらの世界に戻ってくることができるのでしょうか。

 

ミミに一目ぼれしたという怪獣のような大地主のカナアマ家当主。妖怪のようにしか見えない寺の住職。花束作りを得意とする好青年の墓守くん。自分の夢をしっかり見ること、他人の夢は尊重すること、恐怖や罪悪感を持たずに普通の生活を楽しむこと、自然の流れに逆らわないこと。そんなことに気付いたミミたちの大冒険は、まだ始まったばかりのようです。

 

著者は「五十年かけて会得した秘密の書き方」によって本書を書いたとのこと。「ある人にとっては、ただ長く、会話が多く、設定も甘く、特になにも起きない小説」であっても、「ある人にとっては、自分の内宇宙への危険な旅立ちのガイドブックとなっている」本を書きたったという著者による、とても魅力的な作品です。

 

2023/10