りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

吹上奇譚2 どんぶり(吉本ばなな)

異世界伝説のある海と山に囲まれた吹上町で育った双子の姉妹ミミとこだちには、どうやら異世界人の血が

流れているようです。前巻でずっと眠り続けていた母をこちらの世界に取り戻してきたこだちはひっそりと、異世界研究を続けている大地主で、全身けむくじゃらのカナアマ勇さんと結婚。母子3人で地主館に移り住むことになりました。眠り病から覚めた母の趣味は「どんぶりもの」を作ること。彼女に生きる力と食欲を取り戻させた親子丼体験によって、どんぶり料理に目覚めてしまったのです。どんぶりこそ全てが詰まった小宇宙であり、命と食を結び付けるものなのかもしれません。

 

ミミに新しい友人ができました。花輪作りの天才である墓守くんの彼女である美鈴さんです。ひきこもりで前髪ぼさぼさで異様に白くて少女のように細い美鈴さんは、ミミと墓守くんの会話を聞いていて「あなたとは会ってもよいと思った」とのこと。しかし彼女の言葉は声にならず、文字として口元からぽろんぽろんとこぼれてくるだけ。どうやらその文字が見えるのは墓守くんとミミだけのようです。

 

そんな美鈴さんは除霊を仕事にしていて、「死ぬほど怖い」と言いながら出かけていきました。しかし戻ってきたのは美鈴さんではなかったのです。美鈴さんの身体を乗っ取って、普通に言葉を発するセクシー美女・黒美鈴に変身させてしまったのは何者なのでしょう。美鈴さんは自分の身体を取り戻すことができるのでしょうか。黒美鈴に母の親子丼を食べさせたミミは、彼女の正体に気付いて心を開かせるのですが・・。

 

著者は「もはや小説ではない、やりたい放題」にすぎないとしながらも、「これがライフワークっていうもんなんだな」と言い切っています。しかも「誰か優れた監督によってアニメ化して欲しい」とまで言うのです。本書は「人生を片すみに追いやるのではなく、人生の魔法の杖となるような夢」を見るための力を与えてくれる作品なのですから。

 

2023/10