りぼんの読書ノート

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きのうの影踏み(辻村深月)

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文豪ストレイドッグス外伝(朝霧カフカ)』に異能者として登場する作家・辻村深月が操る能力が「きのうの影踏み」と名付けられていたのですが、この本をは未読でした。文庫を手にしてみたら、解説が朝霧カフカさんということでびっくり。もうこのあたりから自書の構想に入っていたのですね。

 

13篇の短編が収録されていますが、解説者によると本書は「情報の不足によって読者に恐怖感を与える」ものではなく「世界のやぶれめという本物の恐怖を垣間見せる」作品集であるとのこと。しかもそのやぶれめは子供にだけ見えることが多いのです。子供たちの間で流行った友人を消す願いとか、噂地図を作製する際のルールとか、ある子供だけに聞こえる謎の声とか、交通事故で娘を亡くした母親の悲しみとかは、きっかけになりやすそう。まるで映画「マトリックス」のデジャブのようです。

 

解説者によると本書には随所に「母」という隠されたテーマがちりばめられているとのことですが、こちらはわかりやすい。母親となった著者の体験談という体裁をとった「私の町の占い師」のように、「母から子への愛は世界がやぶれても切れずに残る糸」のようです。そういえば「きのうの影踏み」という異能力は、娘を思う母から譲渡されたものでした。中原中也に「死の臭いがする」と言わしめたほど、多くの人間を屠ってきた異能だそうですが・・。

 

2022/2