りぼんの読書ノート

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真夜中の子供たち(サルマン・ラシュディ)

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2002年にはノルウェー・ブック・クラブが発表した「世界最高の100冊」に選ばれ、2008年には英国歴代の「ベスト・オブ・ブッカー賞」にも選ばれた名著です。なぜ本書の評価がそれほどまでに高いのか、読んでみて納得できました。

1947年8月15日の真夜中、インド独立から1時間の間に特異な能力を持って生まれたのが、1001人の「真夜中の子供たち」。テレパシー能力を持って生まれたサリーム・シナイは、異能力者たちの結節点となりますが、それは誰にも幸福をもたらすことにはなりませんでした。インドが独立後にたどった苦難や変節が、彼らに反映されていくのです。

名前からわかるように、サリームはイスラム教徒です。インドとパキスタンに分かれての分離独立。三たび起こったインド・パキスタン戦争。「未亡人」インディラ・ガンディーの非常事態令による強権独裁。そのたびにサリームらは悲劇に直面するのですが、物語は彼の個人的な体験に即して進んでいきます。

ドイツで教育を受けた祖父と深窓の令嬢であった祖母の結婚。次女アミナの2度目の結婚で生まれたサリームの出生の秘密。パキスタンに移住して失われた異能力。歌姫となった妹ジャミラへの近親相姦的な恋情。第2次印パ戦争がサリームの一族にもたらした壊滅的な打撃。そして記憶を失ってバングラデシュ独立戦争に巻き込まれ、国境のジャングルを彷徨うサリーム。

彼は「真夜中の子供たち」の一員であった魔女パールヴァティによって記憶を取り戻しますが、破壊神シヴァの裏切りで「未亡人」に逮捕されてしまいます。そしてサリームの存在こそが「子供たち」に決定的なダメージを与えることになるのです。心身ともに傷ついたサリームに、癒しは訪れるのでしょうか。

本書は「ポスト・コロニアル文学」や「マジック・リアリズム」の代表文学として評価されていますが、全編を貫いているのは、報われない祖国愛と絶望感ですね。その激情を表現するのに適した様式が用いられたということなのでしょう。物語の聞き手であるパドマは、インド亜大陸の民衆であり、また本書の全ての読者を象徴する存在なのかもしれません。

2018/12