りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

バベル九朔(万城目学)

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作家志望の夢を抱きながら、亡き祖父が遺した雑居ビル「バベル九朔」の管理人を務めている主人公の前に現れたのは、全身黒ずくめの「カラス女」。彼女に追われるようにして飛び込んだ世界は、どことも知れない湖の中。ようやく岸に這い上がった主人公は、不思議な少女に導かれるままに、湖畔にそびえる塔の最上階を目指して上り始めます。

その塔は、かつて雑居ビルに入ってはつぶれて行ったテナント群の集積によってできていました。現実世界のビルは5階しかないのに、91階もあるのです。しかもそこは死んだはずの祖父が支配する世界であり、主人公は、祖父と少女とカラス女との三つ巴の争いに、わけのわからないまま巻き込まれてしまいます。

どうやら「バベルの塔」とは、自らを「太陽の使い」だと名乗るカラス女たちが、「世界の影」を集めておくために、特殊能力を有していた祖父に造らせたもののようです。主人公は「塔」を維持する能力を失いつつある祖父に呼び寄せられたのであり、一方のカラス女は「塔」を清算するためにやってきた模様。やがて主人公は、全てが自分の決断にかかっていることを悟るのですが・・。

主人公の名前は九朔満大であり、祖父の名前は九朔満夫。どちらも「さんずい」がつく名前であり、力の源が失われた湖にあるというと、偉大なる、しゅららぼんとの関係が思い浮かびますね。主人公の母の名前は三津子であり、やはり「さんずい」がつくのですが、そこは放置されています。

異界を成立させているものは「夢」と「無駄」でした。しかし、作家になりたい夢と、賞も取れず公表もされない無駄な小説が支える世界というものは、現実世界の片隅でもあるのでしょう。親戚の雑居ビルの管理人をしながら、ひたすら小説を書いて新人賞落選を繰り返したという、著者の経歴が結実した作品です。

2017/4