りぼんの読書ノート

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フーコーの振り子(ウンベルト・エーコ)

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1988年に刊行された著者の2作目の小説を再読したのは、絶筆となったヌメロ・ゼロを読み、「虚構が現実を襲う」展開に本書との類似性を感じ取ったためです。あらためて読むと、やはりおもしろい。晩年の作品のほうが、「虚構の上に成り立っている陰謀」に「政治性」を与えているという違いはありますが、博覧強記ぶりはこの作品がピークでしょう。

ミラノのガラモン出版社の表の顔は真面目な本の出版ですが、裏の顔は有象無象の書き手がもちこむ原稿を高値で自費出版させること。テンプル騎士団の秘密の計画を発見したという触れ込みで原稿を持ち込んできた客の訪問をきっかけに、オカルト系の出版ビジネス展開を目論むものの、その客は行方不明になってしまいます。3年後、再び出版社と関わるようになった語り手カゾボンは、編集者のベルボやディオタッレーヴィらとともに、冗談半分でテンプル騎士団の計画を「完成」させようとするのですが、それは虚構の魔手を引き寄せることになっていくのでした。

彼らが再構成したテンプル騎士団の秘密とは巨大エネルギーの発見であり、計画とはその実用化が可能かどうか120年ごとにチェックするというもの。騎士団が解散させられた14世紀から続く計画ですから、21世紀まででも600年という気の遠くなるような準備期間。

その過程で登場するのは、ダ・ヴィンチ・コードでお馴染みのマグダラのマリアの血統とか、自書プラハの墓地で展開した「シオン議定書」とか、ユダヤカバラとか、イエズス会とか、不死の人物とか、歴史上の人物の関わりとか、ありとあらゆるオカルト学説。主人公らの趣旨は、それらを徹底的に笑いのめすことにあったのですが、恐ろしいのはオカルトではなく、狂信者なのです。

初読の時にも印象に残ったエピソードを記しておきましょう。ベルボの創作とされている部分なのですが、マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネの陽気な四人組が、大まかなプロットを決めて競作したフィクションが瞬く間に広まって、反響の大きさに震え上がるというのです。宗教だろうが、オカルトだろうが、陰謀だろうが、信じる者がいれば「事実化」するということです。

2017/4再読