りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

さよならの儀式(宮部みゆき)

著者が2010年から2018年にかけて綴ったSF短編小説をまとめた作品です。時代小説やミステリ、ファンタジーやホラーなど万能作家である宮部さんにはジャンル分けなど不要なのでしょうが、どちらかというとファンタジー寄りのSFというところでしょうか。他で既読の作品も含まれているのですが、あらためてメモしておきましょう。

 

「母の法律」

子供を実母のDVから救い出す「マザー法」なる法律が施行されている時代。子供と母の双方から虐待の記憶は消去され、互いに新しい人生を歩むことができるはずなのですが、「記憶の揺らぎ」問題も完全には解消されていないようです。その一方で実母原理主義とでもいうべき「反マザー法団体」も根強いのです。善意のつもりで余計なことをする人はどんな時代にもいるようです。

 

「戦闘員」

勝手に位置を変える奇妙な防犯カメラたちは無害ではないのです。それは人類を監視する何者かの斥候なのでしょうか。このことに気付いた老人は、人類を侵略者から守る戦闘員を自認するのです。再読。

 

「わたしとワタシ」

過去からやってきた30年前のワタシは、今の自分を見てどう思うのでしょう。それは受け入れられない未来なのか。変えるべきものなのか。軽妙なタイムスリップ作品ですが、やはり未来など知るべきではないのでしょう。

 

「さよならの儀式」

アシモフの短編「ロビイ」や手塚治虫の「火の鳥」に登場するロビタへのオマージュなのでしょう。愛する旧式ロボットに別れを告げる少女の姿を見つめるシニカルなエンジニアは、何を思うのでしょう。

 

「星に願いを」

町の上空を流れ星がかすめてから、妹は周囲の人々を恐れるようになってしまいました。他の人間の心性を視覚化するという外宇宙から訪れた精神生命体は、妹にどんな怪物の姿を見せているのでしょう。しかしもっともおぞましい怪物のように見えたのは、妹を思い遣っているはずの姉だったのです。再読。

 

「聖痕」

12年前に猟奇的な殺人事件を犯した少年Aは、「虐げられし者たちを救う黒き救世主」とネットで崇められていました。そして単なる空想に宗教性を帯びさせた教祖まで現れたのです。調査を依頼された女性は、真面目に更生を果たした元少年Aに会いに行くのですが・・。予想もつかない結末とタイトルの意味が衝撃的な作品です。再読。

 

「海神の裔」

伊藤計劃の未完の遺作を円城塔が書き継いで完成させた『屍者の帝国』に寄せたアンソロジーです。メアリー・フランケンシュタインが開発した屍体蘇生技術が普及して英国の産業を支える労働力となっていた明治時代に、そんな屍者の一体が日本の漁村に小舟で漂着し・・。

 

「保安官の明日」

人びとが何度も同じような生を繰り返す「ザ・タウン」は、何のために存在しているのでしょう。そこで保安官はどんな役割を果たしているのでしょう。おぞましい人生をおくった者に、人でなしにならない人生を選び取るチャンスは訪れるのでしょうか。読者の想像を超える結末という点では、「聖痕」と双璧でしょう。再読。

 

2023/10