りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

川の名前(川端裕人)

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多摩川の支流が流れる地域に住む、小学5年生の少年たちのひと夏の物語。

両親が離婚した後、世界中を飛び回る有名な自然写真家の父に育てられた脩は、海外暮らしや転校が多かったことで、周囲からは羨ましがられるものの自分の居場所がないことを悩んでいます。カナダに取材旅行に出かけた父親と離れて暮らすはじめての夏休みの自由研究テーマとして、仲の良い亀丸や河邑と一緒に、地域を流れる川を調べ始めたるのですが、そこには意外な生き物が棲んでいたのです。

どこかからやってきた謎の生き物の巣を発見して観察を始めた3人でしたが、やがてその生き物が多摩川を泳ぐ姿を目撃されて世間に知られてしまいます。テレビ報道が過熱し、保護しようとする会と放置すべきとする会が対立するなど、数年前の「タマちゃん騒動」を思わせる騒動が起きる中、子育てが始まった巣の場所を秘密にしていた3人だったのですが・・。
 
一連の騒動の顛末を中心に少年たちの成長を描く物語ですが、自然保護とか環境問題をストレートに訴える作品ではありません。そのような大上段に構えた主義主張の前に、自分が住んでいる場所をしっかり眺めることの大切さを、じんわりと考えさせてくれるのです。都道府県や市町村といった人間が作った住所を使わずに、自分の立ち位置をしっかり語れるかどうか。どんな生き方をするにせよ、そこが出発点なのですね。

世界を飛び回って不在の父親よりも、校庭で「カワガキ集合」と呼びかける謎の爺さんのほうが影響力を発揮したという点も象徴的です。地域を流れる小川が大きな川に流れ込み、最後には全世界と繋がる海へと通じていることを、この年代で実感できた少年たちのことを、ちょっぴり羨ましく思えた作品でした。

2018/10