りぼんの読書ノート

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レ・コスミコミケ(イタロ・カルヴィーノ)

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タイトルの「コスミコミケ」とは「宇宙をテーマとする笑い話」程度の意味なのでしょう。Qfwfqと名乗る存在を語り手とする12編の短編はどれも、宇宙や科学の理論から連想されたホラ話なのです。ホラ話といえばビッグフィッシュ(ダニエル・ウォレス)が思い浮かびますが、本書の方には美しい結末などありません。

Qfwfqという語り手は、ビッグバン以前にも存在し、その後は宇宙を股にかけて動き回ったり、宇宙の秩序を保ったりもし、地球に大気や海やに生命が誕生する瞬間を見届け、さらには進化の過程を自ら体験したりもするのです。

これはもう神を越える存在としか言いようがないのですが、実際の行動や会話は、まるっきりのイタリア親父なのが笑える点。ビッグバン以前の特異点の中で、ぎゅうぎゅう詰めの状態で好きな人からスパゲッティを作ってもらったり、生まれてくる原子や未来予測をめぐって友人と賭けをしたり、自分よりも先に進化した相手に恋をして悩んだりと、宇宙規模の出来事がどれも身近な人間関係になってしまうのです。

冒頭の「月の距離」だけは、Qfwfqが人間として登場してきます。地球から手が届く距離にあった月が次第に遠く離れていく運命を、はなかい恋心に重ね合わせた抒情的な作品・・と言いたいのですが、もちろんこれもホラ話です。

2018/9