りぼんの読書ノート

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すべての見えない光(アンソニー・ドーア)

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1944年8月。ノルマンジー海岸で最後までドイツ軍に占領されていたサン・マロに、連合軍の攻撃が開始されます。激しい爆撃と放火の中で出会ったのは、パリから移ってきていた16歳の盲目の少女マリー・ロールと、18歳のドイツ軍技術兵ヴェルナー。物語は、この2人が一瞬の出会いに至るまでの10年間を丁寧に綴って行きます。

6歳の時に光を失ったパリの少女は、自然史博物館で働く父親が作ってくれた街の模型に触れて、自分の周囲から広がる世界について学びます。点字を知ってからはジュール・ヴェルヌを愛読するなど、伸びやかに育てられますが、戦争によって大叔父の住むサン・マロに移住。

一方でドイツの炭坑町の孤児院で育った少年は、壊れたラジオを修理して世界の声に耳を傾けます。独学で身に着けた工学の知識を見込まれて士官養成校へ入学を許されますが、反ナチス的な行為を見咎められ、技術兵として前線に送られてしまいます。

この2人を結びつけることになるのが、マリーの父親が館長から託された伝説のダイヤと、大叔父が持っていた無線機です。ナチスの美術品略奪部隊の下士官がダイヤを追って来る一方で、レジスタンスに加わって無線機を用いるマリーの大叔父にはヴェルナーの技術部隊が迫ってきます。そして運命の日、崩れた館に閉じ込められたマリーは無線機に向かって話しかけ、ヴェルナーは彼女の声を聴くことになるのです。

絶望的な状況の中で、2人に生きる希望を抱かせ続けたものが何だったのか。タイトルの「見えない光」とは何を意味しているのか。丹念に綴られた2人の成長過程の中に答えはあるようです。それに加えて、声を出して本を読むことの素晴らしさを、あらためて教えてくれた作品でした。

2018/9