りぼんの読書ノート

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華竜の宮(上田早夕里)

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ブラック・アゲートを読んで、上田さんの前作を読んでみたくなりました。本書は地球規模の変貌と危機を描いた、本格的なSF作品となっています。

時代は25世紀。ホットプルームによる海底隆起で250メートルもの海面上昇が起こり、多くの陸地が水没したために起きた戦争や既存国家の解体を経たとはいえ、人類は再び繁栄を謳歌していました。残された陸地と海上都市で高度な情報社会を維持していたのです。

しかし、どの国家連合にも属さない海上民の存在が微妙なバランスを崩しかねないと判断した、汎アジア連合が海上民を攻撃し始めたことによって物語が動き出します。旧欧米系のネジェス連合に属しながら、かろうじて独立国の体裁を保っている日本政府の外交官・青澄は、海上民のオサである女性・ツキソメと連絡をとろうとするのですが・・。

青澄のアシスタントである人口知性体・マキを主な語り手として伝えられる、この世界のあり方が興味深いですね。数百年たっても「国家政府」なるものは融通の利かない存在だということは別にしても、海面上昇を乗り切るために費やされたバイオ・テクノロジー遺伝子工学負の遺産がどのように現れて、将来に影響を与えるのか、このあたりはSFの醍醐味でしょう。

人類を待ち受ける更なる滅亡の危機や、それを乗り切るための切り札として、世界にひとりしかいない独特の存在であるツキソメの献体が必要となるとの展開には過剰感もありますが、最新の地球惑星科学をベースとして地球と人類の運命に正面から取り組むには、ここまで必要だったのでしょうか。「宇宙」ではなく「深海」に人類の避難場所を求めるという発想には、現実性を感じます。

2013/2