りぼんの読書ノート

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闇の左手(ル=グィン)

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「闇の左手」とは「光」のこと。「闇」は「光の右手」であり、両者は不可分一体のもの。一見対立している「生と死」も、「男と女」も、「自と他」も、別ちがたい存在なのです。

本書は単独で十分に成立しているのですが、「ハイニッシュ・ユニバース」シリーズの第4作にあたりますので、背景を少々おさらいしておきましょう。遥かな昔、超高度な文明を有する惑星ハインの人々が、銀河系の居住可能惑星に殖民して人間型生命の種を撒いたものの、ハイン文明の滅亡とともに殖民地は忘れ去られます。やがて再興したハイン文明は、地球を含む「失われた植民星」を再発見していくのですが、旧主国のことなど忘れ去って独自の文明を発展させていた諸惑星を、緩やかな宇宙連合体「エクーメン」に再統合していく過程を描いたのが、このシリーズ。

そこで描かれるのは、「文明の衝突」を乗り越えて「相互理解」に達する人々の物語です。どことなく、15~16世紀の「大航海時代」に似ていると思いませんか? このシリーズの主題は、「発見」された新大陸に覇権と征服と富を求めた人類の歴史への強烈なアンチテーゼと言ってよいのではないかと思います。

本書は、宇宙連合からの使節として辺境の殖民星「ゲセン」に派遣された主人公アイの物語。そこは両性具有の人々が住む、性差が存在しない世界。人々は、周期的に巡ってくる生殖期に「産む性」になったり「産ませる性」になったりするのですが、それ以外の期間には性欲すら存在していないんですね。このような人々が作る社会は、どのようなものなのでしょう。

カルハイドという封建国家とオルゴレンという共産国家が存在するものの、どちらも原始的な共生社会であり、個人レベルの犯罪はあっても「戦争」というものは言葉すら存在していない。ひとつは合理的、ひとつは直感的な宗教の存在が、性差の名残りを感じさせているものの、男女間の対立や従属関係などはじめからありえない社会。

地球生まれの黒人男性である主人公のアイは、果たして惑星ゲセンの説得に成功するのか・・というストーリーなのですが、ここで描かれるのは、ゲセンの高官であるエストラーベンとアイの間の心の交流です。2人を隔てている、人種や性差や文化の違いを乗り越えるには何が必要だったのでしょう。40年前に書かれた作品ですが、今に至ってもその輝きを失っていない名作です。

2010/2読了