りぼんの読書ノート

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崩壊(オラシオ・カステジャーノス・モヤ)

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ホンジュラス生まれのエル・サルバドル人で、2度に渡って亡命を余儀なくされ、現在はカナダに在住している作家の作品です。

著者の来歴そのままに、中米で国境を接する両国にまたがって生きる家族が、近親憎悪ともいうべき両国間の対立に翻弄される物語。この近親憎悪というものは、第三者から見ればどこか滑稽でもあるのですが、当事者にとってはもちろんシリアス。

第一部は、ホンジュラスの弁護士で有力な政治家でもあるエラスモが、愛娘のテティのサルバドル人との結婚に猛反対している、偏執的な妻のレナに悩まされるエピソード。トイレに閉じ込められて、娘の結婚式に出られなくなっちゃうのですから、大変です。^^;

ところが、夫とともにエル・サルバドルに移住した娘のテティと父親のエステルとの間で交わされた書簡から構成される第二部になると、俄然シリアスになってきます。1969年には両国間の戦争が起こり、互いに異国人を虐殺し合っているという噂の中でテティは身を潜ませて生きていかなくてはなりません。さらに3年後には、クーデターが起こり、その前夜、テティの夫・クレメンテは殺害されてしまうのですから。

ただ戦争の直接の引き金がサッカーのワールドカップ予選での両国の対戦であったり、クーデターの首謀者たちが皆、アルコール中毒更正会に入っている軍人たちだったり、どれも史実なのですが、中米の歴史は一筋縄ではいきません。

第三部では、父親のエラスモに続いて、娘の結婚にずっと反対し続けていた母親のレナも亡くなり、ホンジュラスの名門の農園も閉ざされてしまいます。でも、本書で描かれたものは史実を基にしていながらも、架空の中米なのでしょうね。フィクションとは、現実世界を出発点としながら、実際には起きなかったが起こって欲しかったこと、起こってしまえば恐ろしいであろうことを想像しながら作り出される「架空の世界」だというのですから・・。

2010/2読了