りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

鉄の骨(池井戸潤)

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空飛ぶタイヤで、自動車会社のコンプライアンス違反問題を中心に据えて、それを巡る周囲の人々を主人公とした群像小説を描いた池井戸さんの次の作品のテーマは、「ゼネコン談合」でした。

建設現場から業務課へと異動した中堅建設会社・一松組の若手社員、富島平太は、そこが通称「談合課」と呼ばれていることを知って愕然とします。もちろん談合は「悪」であり、2006年1月の独禁法改正を機に、各社は「脱談合」を宣言したのですが、直後に名古屋地下鉄談合事件を引き起こしたことも記憶に新しい。

ではなぜ談合がなくならないのでしょう。その背景には、建設・土木業界が全就業人口の10%近くを占めるという、日本の経済構造の根幹に関わる問題があるようです。ゼネコンの倒産は下請けや資材会社の
連鎖倒産を引き起こし、社会の不安定化すなわち政治問題を引き起こす可能性があるようなんですね。

そんないびつな産業構造を温存してきたのが、談合というシステムが支えてきた巨額の公共事業。とはいえ、「赤字企業を淘汰して健全で強い体質の企業を生み出す」自由競争化を一気に進めることが、大きな痛みを伴うことも間違いありません。何しろ多くの土木・建設会社は零細ビジネスなのですから。長期的には、それをしないといつまでたっても悪循環から抜け出せないことは、わかっているのですが・・難しい・・。

本書は、あえてその難しい部分に入り込んで、談合を「悪」と切り捨てるだけではなく、若手社員の眼を通して談合の意味を考えさせ、新しい仕組みを模索した小説となっています。東京地検特捜部が談合の証拠を掴むべく、お金の流れを追って捜査を進める部分も、銀行で働く平太の恋人・萌が、合理主義的エリートの先輩との間で揺れ動く部分も含め、楽しく読める一方で、考えさせられる部分も多い小説です。

2010/2


(追記)
「官製談合」という言葉があるように、政治と行政の側の問題も大きいのです。私の勤める会社は、数年前から公共事業への入札をいっさいやめています。理由は明快。公共事業に関わっていると、談合に巻き込まれるリスクが高いから。ここまで民間に信頼されていない「官」しか持てない国民というのも悲しいものです。