りぼんの読書ノート

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ロカノンの世界(ル=グィン)

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ゲド戦記シリーズル=グィンさんの処女長編です。冒頭のエピソードには、出版社から全く相手にされなかった最初の短編が使われているとのこと。

本書は、著者の初期作品群をなす「ハイニシュ・ユニヴァース・シリーズ」の第1作でもあります。宇宙規模の始祖文明ハインの崩壊後、原始状態に戻ってしまった各惑星が独自に発展させた文明を、再興しつつある世界連盟が調査に赴くという設定は、人間的知性体が各所に存在する理由の説明であるのみならず、SFとファンタジーの中間を行く著者の作風にふさわしい。

「伝説と事実、真実と真実をどうやって見わければよいのだろう。ごく普通の入り口の奥に、おどろおどろしい炎や宝石や、女の腕の動きが垣間見える。伝説や悲劇的な神話や、なんだがわけのわからない世界にさまよいこんだような気がする」という冒頭の言葉は、シリーズ全体に捧げられているように思えます。

北欧神話をベースとしたプロローグ「セムリの首飾り」で出会った、惑星フォーマルハウトの貴族的な女性に魅かれた民俗学者のロカノンは、数年後に調査隊を率いてこの星を訪れることになります。宇宙旅行者と地上生活者の間に横たわる時間の流れの差によって、セムリは既に亡くなっていたとの感慨にひたる間もなく、調査隊は反乱軍の攻撃により壊滅。

全ての機器も隊員も失ってただひとり残されたロカノンは、反乱軍の存在を連盟に知らせるために、反乱軍の基地に潜入して通信機を奪いにいく旅に出ます。セムリの孫にあたる青年モギーンら現地種族たちの協力を得られたものの「非文明的世界=神話的世界」を行く旅は困難を極め、ファンタジー的ではあるものの怖ろしい敵に出会うたび仲間を失っていくほどの過酷さなのですが、著者の筆致は静かなまま。

これは、異文化を尊重し、その中に入り込むことによって異文化を理解しようというロカノンの、ひいては著者の姿勢が作品の中に現れているからなのでしょう。名作として名高い闇の左手も、この延長線上に生まれたものですね。表紙を飾る萩尾望都さんの絵も、この作品とぴったり合っているようです。

2013/2