りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-01-01から1年間の記事一覧

機龍警察(月村了衛)

機甲兵装というパワードスーツが警察にも配備されるようになっている、近未来の日本。しかし軍用兵装とは性能の差が大きいため、警視庁は特捜部を創設して、龍騎兵と呼ばれる新型機を導入し、その搭乗員として3人の傭兵と契約。そんな折に、3機の密造機甲…

がらしあ(篠綾子)

明智光秀の娘として生まれて細川忠興の妻となり、関ヶ原の戦いの際に石田三成の命による人質を拒んで死を選んだ、細川がらしあ玉子の生涯を丁寧に綴った作品です。「がらしあ」とは不思議に感じる洗礼名ですが、ラテン語で「Gratia」、英語では「Grace」とい…

さらさら流る(柚木麻子)

昨今問題になっている「リベンジポルノ」について正面から取り上げた作品です。28歳になった菫は、かつて恋人であった光成に撮影を許したヌード写真が、ネットにアップされていることを偶然発見して動揺します。どこか不安定な危うさを秘めていた光成は、…

ぼくは怖くない(ニコロ・アンマニーティ)

1978年の夏。民家がたった5軒しかない南イタリアの貧しい集落に暮らす少年ミケーレが、恐ろしい事件に巻き込まれます。子供たちの間の罰ゲームで行かされた、廃屋の裏にある穴の中に閉じ込められた少年を発見してしまうのです。 深い闇の中で自分はもう…

風神雷神 雷の章(柳広司)

「琳派の祖」と呼ばれる俵屋宗達が、鬼才を開花させていった過程を描いた作品です。上巻にあたる『風の章』では、琳派誕生の瞬間ともいえる「嵯峨本」製作までの物語が綴られました。後半の「雷の章」では、朝廷・幕府間の調整役であった名門公卿の烏丸光広…

風神雷神 風の章(柳広司)

「風神雷神図屏風」で絵画階に革命を起こし、「琳派の祖」と呼ばれる俵屋宗達の一代記です。前半にあたる「風の章」は琳派誕生の瞬間ともいえる「嵯峨本」製作までの物語であり、辻邦夫氏の『嵯峨野明月記』で描かれた世界と重なっています。 本書は「醍醐の…

森へ行きましょう(川上弘美)

ひのえうまの1966年の同じ日に生まれた留津とルツは、パラレルワールドに生きた同一人物のようです。よく似た境遇に生まれて同じ人物たちと出会いながらも、進学、就職、恋愛、結婚、出産という選択肢の中で、2人の人生は大きく隔たって行くのです。 中…

アメリカ大陸のナチ文学(ロベルト・ボラーニョ)

元ナチの高官が潜伏するなど、ナチと南米との間に深い関係があることは史実ですが、本書は「架空の親ナチ作家列伝」です。特徴的なのは、彼らは欧州からの訪問者ではなく、南米や北米に生まれ育ってナチ思想に親近感を抱いた者たちであるということ。ナチに…

レス・ザン・ゼロ(ブレット・イーストン・エリス)

1985年に出版された本書は、ロサンゼルスを舞台にして、裕福な家庭で何不自由なく暮らす若者たちがドラッグやセックスに溺れて暮らすという、なんとも救いようのない作品です。登場人物たちとほぼ同世代の青年が書き上げた作品ということで話題になり、…

2018/8 火星の人(アンディ・ウィアー)

8月にはSF作品をたくさんアップしました。暑い夏を乗り切るには、SFに限りますね。スピルバーグが監督した映画「Ready Player One」の原作者であるアーネスト・クラインさんのオタクぶりも、リドリー・コットが監督した「オデッセイ」の原作者であるア…

わたしを見かけませんでしたか?(コーリイ・フォード)

近頃なぜか、階段の勾配はきつくなり、電話帳の活字は小さくなり、駅は遠くなり、スーツは胴回りだけ縮んでしまったという「あなたの年齢当てます」をはじめとして、中年男性の悲哀をユーモラスに描いた12編の「あるある」短編集です。 デバートやレストラ…

酸っぱいブドウ/はりねずみ(ザカリーヤー・ターミル)

1931年にダマスカスで生まれ、現在はシリアを代表する文学者となっている著者の短編集「酸っぱいブドウ」と、中編「はりねずみ」が収録されています。 59編もの短編からなる「酸っぱいブドウ」では、架空の地域「クワイク街区」を舞台として、暴力・抑…

団塊の後(堺屋太一)

戦後の高度経済成長とバブル景気を経験した第一次ベビーブーム世代を『団塊の世代』と名付け、『平成三十年』などの著作で、団塊の世代が定年を迎えた後の閉塞社会を予測した著者が、さらに次の時代を予測した作品です。 時代は2026年。東京オリンピック…

戦の国(冲方丁)

著者が、アンソロジー歴史小説『決戦!シリーズ』に寄せた6作品を1冊にまとめた本ですが、桶狭間から大阪の陣まで時系列で並べてみると、ひとつの思いが浮かび上がって来るようです。それは、太平の世を作ることを大義名分としながら、太平の世には収まり…

明るい夜に出かけて(佐藤多佳子)

人間関係のトラブルがきっかけで大学を休学し、金沢八景のコンビニでバイトしながら一人暮らしを始めた主人公・富山の唯一の趣味は、ラジオの深夜放送を聞くことでした。中でもお気に入りは「アルコ&ピース」がパーソナリティを務める「オールナイトニッポ…

ウィステリアと三人の女たち(川上未映子)

2008年に芥川賞を受賞した著者の作品を、はじめて読みました。3編の短編と1編の長編にはいずれも、死の影が漂っており、時折り同性愛的なものが見え隠れするという点で、作中にも登場するヴァージニア・ウルフをイメージさせてくれます。 「彼女と彼女…

スパイダー(パトリック・マグラア)

カナダで療養を終えてロンドンに戻ってきた主人公デニスが、一人称で語り続ける物語。彼によると、20年前に恐ろしい事件が起こっていたのです。身勝手な父が、パブで知り合った娼婦ヒルダと共謀して、優しかった母を殺害。母になり代わって家に住みついた…

コールドマウンテン(チャールズ・フレイジャー)

だいぶ前に映画で見たのですが、原作は未読でした。南北戦争末期、戦争で引き裂かれた恋人たちが再会を目指す物語。映画のキャストは、ジュード・ロウとニコル・キッドマンでしたね。 ピーターズバーグの戦いで首に銃弾を受け、瀕死の重症を負った南軍兵士の…

エトワール広場/夜のロンド(パトリック・モディアノ)

ノーベル文学賞受賞作家であり「生存する最も偉大なフランス作家」とも称される著者が、1968年に22歳で発表したデビュー作と、翌年の第2作を収録した1冊です。どちらの作品にも「ナチス占領下のパリで闇のブローカーとして生き残ったユダヤ人」であ…

ウンベルト・エコ作『女王ロアーナの謎の炎』逆(裏)読み(フランコ・パルミエーリ)

『女王ロアーナ、神秘の炎』の解説書かと思ったのですが、全然違いました。これは「エーコ批判の書」だったのです。 では『女王ロアーナ』のどのような点が批判されているのでしょう。どうやら著者はこの本を「小説」ではなく「収集家の記録」として位置付け…

紅霞後宮物語 第0幕2(雪村花菜)

軍人皇后として伝説を残す関小玉の活躍は、『紅霞後宮物語』として、現在7巻まで出ています。こちらの「第0幕」は、小玉が皇后に登り詰めるまでの物語。 前巻の『第0幕1』では、貧農の家に生まれ、足の悪い兄の身代わりとして徴兵された小玉が、軍才を見…

愛のゆくえ(リチャード・ブローティガン)

人生の敗北者たちが自作の著書を持ち込んでくる風変わりな図書館で、ただひとりのスタッフとして24時間勤務している主人公の男性は31歳。もう3年も図書館の外に出たことはありません。なんとなく、村上春樹さんの『世界の終り』を思わせるプロットです…

ビブリア古書堂の事件手帖 7(三上延)

人気シリーズの完結編だけあって、今回取り上げられる古書は超大物である「ファーストフォリオ」です。世界でも238冊しか存在が確認されていない、シェイクスピア戯曲集の初版本であり、時価は数億円というしろもの。しかも「ファーストフォリオ」の存在…

はるかな星(ロベルト・ボラーニョ)

この著者のことは、白水社の「エクス・リブリス」から刊行されている『通話』と『野生の探偵たち』で知りました。それ以外にも同じ白水社から「ボラーニョ・コレクション」として既に7作刊行されていますが、本書はその1冊。 本書は、短編集『アメリカ大陸…

老人と宇宙(そら)6 終わりなき戦火(ジョン・スコルジー)

戦死率が異常に高い異星人との戦争において、老人たちに若返った身体を与えて「人類コロニー連合」の兵士とするというアイデアから始まったシリーズですが、かなり遠いところまで来てしまいました。そもそも本編は「第3巻」で終了しており、「第4巻」は別…

アルテミス(アンディ・ウィアー)

極限状態のサバイバルを徹頭徹尾科学的に描いたハードSF『火星の人』の著者が次に選んだ舞台は、月世界でした。しかも本書の主人公は、貧しくもユーモア精神にあふれた自称天才美女なのです。ついでにサウジアラビア人。 5つのドームに2000人の住民が…

火星の人(アンディ・ウィアー)

リドリー・コット監督によって映画化されました。映画の邦題「オデッセイ」はちょっといただけないのですが、原題は原作と同じ「The Martian」です。 ストーリーはシンプルです。猛烈な砂嵐によって3度目の有人火星探査ミッションは途中で中断。折れたアン…

メカ・サムライ・エンパイア(ピーター・トライアス)

第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、アメリカ西海岸は大日本帝国の統治下にある「日本合衆国」となっている世界。歴史改変SFである『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続編にあたりますが、独立した作品としても読書可能でしょう。前作のヒロイン…

エバ・ルーナのお話(イサベル・アジェンデ)

シェヘラザードのように物語を紡ぎ出す能力をもって、混迷する世界を逞しく生き抜く少女『エバ・ルーナ』が、ついに巡り合った運命の人・ロルフに語る「お話」が23編も詰まっている「別巻」です。まるで神話のような物語群ですが、大半はエバが暮らしたア…

エバ・ルーナ(イサベル・アジェンデ)

1973年に暗殺されたチリのアジェンデ大統領の姪で、1982年に『精霊たちの家』でデビューした著者が、亡命先のベネズエラを舞台にして著した作品です。 密林に捨てられていた少女と、毒蛇に噛まれて死にかけていたインディオの間に生まれた娘エバが、…