りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

さらさら流る(柚木麻子)

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昨今問題になっている「リベンジポルノ」について正面から取り上げた作品です。28歳になった菫は、かつて恋人であった光成に撮影を許したヌード写真が、ネットにアップされていることを偶然発見して動揺します。どこか不安定な危うさを秘めていた光成は、なぜ今になって6年も前の写真を流出させたのか。菫は、友人で画家の百合の協力を得て、過去と現在の問題を見つめ直します。

菫が光成と付き合い始めたきっかけは、学生時代のコンパの帰りに、渋谷川と河骨川の暗渠をたどって帰宅したことでした。唱歌「春の小川」に歌われながら地下に閉じ込められてしまった都会の川のように、淀んでしまった菫の気持ちは、再びさらさらと流れ出すのでしょうか。

性被害はどのようにして起きるのか。なぜ被害者が責められてしまうのか。そんな社会的圧力に押しつぶされないためには何が必要なのか。自分の身体と尊厳を踏みにじられた女性が、いかにして自分を取り戻すのか。再び誰かを信じることができるのか。菫が「彼が憎んだ、私を許そう」との境地に至るまでの過程が、丁寧に描かれていきます。

菫が最後に踏み出した一歩は、少々ユニークではあるものの、問題はそこではありませんね。まずは自分をしっかり見つめて、その上で自分を肯定することが大切なのでしょう。その一方で、リベンジポルノなどという卑劣な手段を用いる加害者には、その背後にどのような理由があろうとも、ずっと暗渠の中を歩いていくような人生が待ち受けていることをわかって欲しいものです。

2018/9