りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

火星の人(アンディ・ウィアー)

イメージ 1

リドリー・コット監督によって映画化されました。映画の邦題「オデッセイ」はちょっといただけないのですが、原題は原作と同じ「The Martian」です。

ストーリーはシンプルです。猛烈な砂嵐によって3度目の有人火星探査ミッションは途中で中断。折れたアンテナに直撃されて砂嵐の中に消え、生体反応も途絶えたマークを残して、隊員たちは火星を離脱。しかし奇跡的に生きていたマークが、救出を待って過酷な環境の中を生き延びていく物語。

もともと次の火星ミッションが計画されていたのは、4年後のこと。カメラを通じてマークの生存を知ったNASAは全力を挙げて救出作戦に取り組むのですが、片道8カ月もかかる火星への到着は年単位で考えなくてはなりません。火星基地はほぼ無傷であったものの、長期間の生存など可能なのでしょうか。

著者は、そのために必要なものを緻密に計算したはずです。あるものは太陽光パネルプルトニウムを用いた熱源、炭酸ガスから酸素を発生させる装置、ビタミン剤。ないものは水とカロリーとその他もろもろ。エンジニア兼植物学者であるマークは、余剰燃料のヒドラジンから水を精製し、カロリーを得るためにジャガイモ栽培を試みます。ちょっと意地悪なのは通信装置が壊れてしまったこと。マークは火星に放置された前世代の通信装置を入手しにいくアイデアを実行に移します。

一方のNASAでは、地球に帰還途上にある宇宙船をスイングバイで火星に戻すという案が浮上。マークを置き去りにしたことを悔やんでいるクルーにとって、これは燃えますね。さらに組織や国家を超えた支援が、彼らを支えます。とはいえ、通常の宇宙開発ではありえないリスクを抱えた計画は、スリリングなものにならざるを得ません。そしてクルーは救出に、マークは火星発着船を有する遠く離れた基地へと向かうのですが・・。

宇宙SFにありがちな超科学的な技術や、人為的な陰謀などはいっさい登場しません。本書は、過酷な環境の中で生き抜くための創意工夫や、リスクや、トライ&エラーのみで出来あがっている、超ハードSFなのです。固い内容なのですが、終始明るく失敗を笑い飛ばすマークの口調がいいですね。文庫サイズで580ページもある作品ですが、一晩で読んでしまいました。

2018/8