りぼんの読書ノート

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メカ・サムライ・エンパイア(ピーター・トライアス)

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第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、アメリカ西海岸は大日本帝国の統治下にある「日本合衆国」となっている世界。歴史改変SFであるユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンの続編にあたりますが、独立した作品としても読書可能でしょう。前作のヒロインであった特高警察エージェントの大槻昭子も登場しますが、この作品では脇役です。

テロリスト集団のジョージ・ワシントン団が起こしたサン・ディエゴ騒乱から10年後。その騒乱で両親を失い、現在は高校卒業を目前にしている誠が、本書の主人公。優等生お嬢様の橘範子、落ちこぼれ組悪友の秀記、日独ハーフの留学生グリゼルダ、たたきあげで負けず嫌いの千衛子、天才的な問題児の久地樂らとともに士官学校の訓練生となって、巨大ロボット兵器「メカ」のパイロットをめざす青春物語。前作よりはかなり明るいですね。

とはいえ、シリーズの奇妙な世界観は健在です。世界の半分を支配する大日本帝国は、占領地の神々を日本古来の八百万の神々と合祀した効果もあって、軍の上層部はかなりグローバルになっているものの、末端はいまだに硬直的。新しい世代の主人公たちとの軋轢も頻繁に起こります。

それでも、心置きなく悪役にされているナチスと比べればマシなのです。人種差別主義は健在で、「壁の向こう」では何やら恐ろしい事態が起こっている模様。地中海を埋め立てて環境を激変させ、月の植民地化にも着手するという超化学力を有し、世界を二分している大日本帝国とは冷戦状態。今また画期的な「バイオメカ」を開発し、正規軍が留守中の日本合衆国を挑発しようとしています。少年たちは試作メカに乗って、施設と市民を守るために立ち上がるのですが・・。

この種の歴史改変SFは、敗者となった民主主義陣営の視点から描かれることが多いのですが、その逆なので、日本人の読者としては安心できません。「戦勝国日本はこうなっていて欲しい」という期待は、相当に裏切られていますので。

2018/8