りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ウィステリアと三人の女たち(川上未映子)

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2008年に芥川賞を受賞した著者の作品を、はじめて読みました。3編の短編と1編の長編にはいずれも、死の影が漂っており、時折り同性愛的なものが見え隠れするという点で、作中にも登場するヴァージニア・ウルフをイメージさせてくれます。

「彼女と彼女の記憶について」
気まぐれで田舎町の中学の同窓会に出席した30代なかばの女優が、3年前に餓死したという同級生の女性の消息を告げられます。性を意識し始めたころに、その女性と「ある時間」を過ごしたことなど、完全に忘れ去っていたのですが。

「シャンデリア」
たまたま作曲したメロディーが売れまくり、デパートのブランド店をまわって日々を過ごしている40代の女性が、金満な老婆に向かって悪罵を投げつけます。その老婆は、貧しかった時代に「限りなく自死に近い事故死」をした母親と同じ年代だったのですが。

「マリーの愛の証明」
精神の平衡を崩した少女たちが保護されている施設で、不毛な会話が交わされ続けます。元ルームメイトが要求する「愛の証明」など提示できないマリーは、心の奥底に何かが溜まり続けている感覚を抱いています。それが溢れてしまった時に、訪れるものは何なのでしょう。

「ウィステリアと三人の女たち」
かつて老女が住んでいた取り壊し中の家の庭には、藤の花が咲いていました。はす向かいに住む女性は、その老女のたどった生涯を幻視するのです。その家で同居していたイギリス人女性と一緒に、英語塾を開いていた過去。イギリス人女性の帰国と訃報。その後の長い長い独り暮らし。もはや事実と想像も、語り手と語られる者の区分も判別しがたくなっていきます。

2018/8