りぼんの読書ノート

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明るい夜に出かけて(佐藤多佳子)

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人間関係のトラブルがきっかけで大学を休学し、金沢八景のコンビニでバイトしながら一人暮らしを始めた主人公・富山の唯一の趣味は、ラジオの深夜放送を聞くことでした。中でもお気に入りは「アルコ&ピース」がパーソナリティを務める「オールナイトニッポン」。以前のラジオネームを隠して細々とネタを投稿する主人公の前に現れたのが、コンビニの客として登場した女子高生。彼女は、最優秀ネタにだけ贈られるノベルティの「カンバーバッヂ」を2個も持っていたのです。

かくして富山の隠遁生活の中に、「虹色ギャランドゥ」のラジオネームを持つかなり変わった女子高生・佐古田が、ズカズカと入り込んでくるのです。それをきっかけにして富山は、少しずつ周囲に心を開き、過去のトラウマや自分の将来と向き合っていくのですが・・。

ラジオ番組を舞台とする小説には絲山秋子さんのラジ&ピースもありますが、そちらは放送する側の物語。こちらはリスナー側の物語なのですが、かなり大胆に番組の内容も盛り込まれています。それでいて深夜ラジオとの微妙な距離感を保っているのは、著者自身がこの番組のヘビーリスナーだからなのでしょう。

深夜ラジオにネタを送る人のことを、今でも「ハガキ職人」というそうです。当然今ではネット経由でリアルタイムで交信されているのですが、「ハガキ職人」という言葉には手作り感がありますね。暗い夜を明るく
するものが、最終的にはリアルな人間関係であることも含めて、本書の中では旧さと新しさのバランスがとれているようです。

2018/8