りぼんの読書ノート

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風神雷神 風の章(柳広司)

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風神雷神図屏風」で絵画階に革命を起こし、「琳派の祖」と呼ばれる俵屋宗達の一代記です。前半にあたる「風の章」は琳派誕生の瞬間ともいえる「嵯峨本」製作までの物語であり、辻邦夫氏の嵯峨野明月記で描かれた世界と重なっています。

本書は「醍醐の花見」の場面から始まります。秀吉が創造した煌びやかな祭典が、扇屋「俵屋」の養子となって間もない伊年(後の宗達)に影響を与えたことは、宗達晩年の作品が醍醐寺に多く遺されていることと無縁ではないのでしょう。また当時のスターであった出雲阿国との出会いも、重要なポイントであったとされています。

宗達が描く俵屋の扇は次第に評判となり、幼馴染の角倉素庵がプロデュースした「嵯峨本」製作において、本阿弥光悦と運命の出会いを果たします。やはり幼馴染の紙師宗仁が提供した高級和紙に宗達が下絵を描き、万能文化人の光悦の手による版下文字を配した製本書籍の美的水準は、日本美術史上の奇跡でしょう。2004年の「琳派展」で実物を拝見したことがあります。

しかし宗達は、光悦からの「鷹峯文化村」への参加の誘いを断って、俵屋を継ぐのです。その決断は後になって新たな飛躍をもたらすことになるのですが、その過程は下巻にあたる雷の章で展開されるのでしょう。彼に多大な影響を与えることになるもう一人の人物、名門公卿・烏丸光広との出会いが、宗達を待っています。

2018/9