りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

風神雷神(原田マハ)

f:id:wakiabc:20210405121324j:plain

16世紀後半に、洋の東西で美術の流れを変えた2人の人物が誕生しています。日本では1570年代に生まれて絢爛豪華な琳派祖となった俵屋宗達。イタリアでは1571年に生まれて強烈な明暗でドラマチックな場面を演出したバロックの巨匠カラバッジョ。本書はその2人が、少年時代に出会っていたという発想から生み出された作品です。そんな奇想天外な発想を史実に忍び込ませるために、著者は天正遣欧少年使節を用います。

 

物語は、京都国立博物館琳派を研究している望月彩のもとに、マカオ博物館の学芸員が訪れる場面から始まります。マカオ大聖堂の発掘調査の際に、マカオで葬られた原マルティノの署名が残る古文書と、カラバッジョ風の油彩画が発見されたというのです。その絵画の題材はギリシャ神話の雷神である「ユピテル」と風神「アイオロス」であり、そして原マルティノが残したという記録には驚くべき物語が潜んでいたのです。

 

1582年に日本を出発してヨーロッパ各地を巡り、ローマ法王に謁見を果たした後に1590年に帰国を果たした使節団のメンバーは、4人の少年キリシタンです。しかし原の記録では、非公式に同行していた少年がいたというのです。そしてその少年こそが後の俵屋宗達であり、織田信長に絵画の才を認められて特別の目的を命じられていたというのです。

 

なぜ彼がそのような任に就くことになったのか。彼の目的は何だったのか。初めて目にした西洋絵画、とりわけダ・ヴィンチミケランジェロによる奇跡的な絵画に触れた少年は何を思ったのか。当時はミラノの工房での不良弟子にすぎなかったカラバッジョ少年とは、どのように出会ったのか。そして互いの能力を認め合い、それぞれ自分だけにしか描けない絵を生み出すことを約束した2人の少年が絵を交換しあったという結末に至る物語は、読者を楽しませてくれるものでした。宗達ルネッサンス絵画に触れていたと想像するだけで、ワクワクしますものね。原マルティノら少年使節たちの心情の揺れとシンクロさせた物語の展開も見事です。

 

2021/5